19C末のコーカサス、カラチョフの絨毯 左右対称でない部分を示す |
近くのデパートで「ギャッベ展」がありましたので、ちょっとのぞいてみました。新作のきれいなギャッベが飾られていて、今の寒い時期、こうしたパイルの長いカーペットは暖かそうです。
ギャッベ(ギャベ、ガベ)については、アートコアの竹原さんが以前ローリー族のものについて解説していますので、そのまま引用します。
「ガベはテントの中で、あるいは放牧に際して羊飼いの寝具として使われました。春、秋の移動期には、その途上の休憩時に仮眠にも使われました。織り組織は同じ絨毯のなかにペルシャ結びと、トルコ結びが混在していることが多く、異なった部族が互いに影響しあっていることが伺えます。またよこ糸が多いもので10本以上あり、他の絨毯に比べて短時間で織り上げることが可能でした。素材は羊毛に加えて、ラクダ、やぎの毛なども使われました。Spring Woolと呼ばれる初夏にかられるウールは油がのってしなやかです。残念ながらガベは生活用品として使われ、また柔らかい組織構造より、使われ痛んだものは捨てられる運命にあり、古いものは残っていません。現存するものでは19世紀中期のものが最も古く、ガベの存在が外部社会に紹介されたのは今世紀中頃(20世紀)になってからです」
もともとのギャッベは、柔らかく、長い毛先のウールを使っており、通常の絨毯よりかなり厚いものでした。最近のものは以前より毛足が短くなっています。またデザインも家庭用に使うため、凝ったものではなく、絨毯用の模様を簡略化したような模様です。今のようなグランドを中心とした、きれいなグラディエーションをしたものは、あくまで近年になって欧米の要望に沿って作られたものです。日本では、1990年ころから、大阪の絨毯ギャラリーなど一部の絨毯業者が、コンデションのよい古いキリム、絨毯の確保が難しくなったため、新作の絨毯としてギャッベに注目したことは始まると思います。その上で寝るという特徴から当初のものは厚みも5cmくらいありましたが、さすがに家具の下に敷くには厚すぎ、最近では1cmくらの厚みが主体となり、今回のデパートの展示会でもすべて厚みの薄いタイプでした。またウールもそれほど柔らかいものではなくなり、通常の絨毯とあまり違いはありません。デザインも抽象的なコンテンポラリーなものに人気があるようです。
ギャッベは主として遊牧民のローリー族、カシュガイ族の織られた絨毯を総称しますが、絨毯ではなく、平織りのキリムに属するものとして、イランのクルド、バルーチ族などが織るソフレと呼ばれるものがあります。とりわけ人気があるのはイラン中部のカモ村で編まれたカモソフレは、焼き上がったナンを保管する布で、その素朴な模様に人気があります。模様はギャッベに通じるもので、素朴な模様な現代美術にも通じるものとして脚光を浴び、わずが100枚程の古いカモソフレは瞬く間に愛好者のものとなり収蔵されました。
単純な図案のギャッペでは、一畳サイズを約20-25日で仕上げると言われ、これは通常の絨毯に比べてかなりスピードの織りです。カシュガイ、ローリー族など遊牧民にとっては、貴重な現金収入であり、イランの絨毯メーカーのゾランヴァリは、毛糸の刈り取りから、手紡ぎ、自然染料による染め、手織りなど、一貫した生産体制は、品質の向上と一定の生産量に益していますが、一方、各家庭、織り子によるデザインの違いが持つ面白みは欠け、コレクターアイテムとしてそれほど興味は感じられません。いずれにしても、手織りの絨毯については、ギャッベも含めて、生産国のイラン、トルコともに物価が上昇し、織り子の賃金も上昇し、その結果、絨毯価格が高騰して売れないというジレンマがあります。一方、アンティーク、オールドの上物は、コレクターアイテムとして市場に出ません。幸いなことに躍進めざましい中国ではそれほど絨毯ブームはなく、主として欧米の顧客が主体なので、それほど価格の高騰はありませんが、いずれに中国の金持ちが投機目的で購入することもありえます。
写真は、以前紹介したコーカサス、カラチョフの絨毯です。19世紀末ころのもので、パイルは短くなっていますが、正方形に近い形態、緑のグランドが美しいものです。イスラム教では左右対称を尊び、高級ペルシャ絨毯では厳密な左右対称となっており、左右対称=高級です。そのため、最近のコーカサス絨毯はきれいな左右対称になっていますが、100年以上前のコーカサス絨毯は多少の左右対称の破綻が見られ、そこがおおらかな印象を与え、魅了となっています。この絨毯でも作者のユーモアでしょうか、変な文様がたくさん見られます。
*ギャッベについては15年前に買った「ギャッペ・アート」(堀田隆子、京都書院アーツコレクション、平成9年)にくわしく解説されています。小さな本ですが、オールカラーのきれいな本です。
*ギャッベについては15年前に買った「ギャッペ・アート」(堀田隆子、京都書院アーツコレクション、平成9年)にくわしく解説されています。小さな本ですが、オールカラーのきれいな本です。
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