オキシタラン繊維はセメント質にはついているが、もう一方は歯根膜内にあるだけである |
オキシタラン繊維と歯槽骨とのスキマがFree zone |
先週の弘前歯科医師会月例会で弘前大学医学部保健学科教授、敦賀英知先生の「矯正的歯の移動とオキシタラン繊維」と題した講演を聞いた。
歯の矯正力による移動では、歯が動く方向では歯根膜が狭くなり、血流が不足して硝子用変性を起こし、破骨細胞が活発となり、骨が溶ける。一方、逆方向では歯根膜が拡大され、それとともに骨芽細胞が活発となり、新たな骨ができる。こうした機構により歯は移動する。
歯の移動においては、こうした機構が働くのはある程度知っていたが、歯根膜にある繊維については、お恥ずかしいことだが、全く知らなかった。コラーゲン繊維があることは知っていたが、弾性繊維であるオキシタラン繊維が関係することは初めて聞いた。
オキシタラン繊維は、エラスタチンと複合して多くの筋肉にあるが、純粋のオキシタラン繊維(束)は人間では歯根膜と目の水晶体の周りの筋肉しかない。伸縮性のないコラーゲン繊維は歯のセンメント質と周囲の歯槽骨を結びつけているが、オキシタラン繊維はセメント質から歯根膜に並行に走っていて、歯槽骨には直接付いていない。むしろ歯槽骨に近い場所ではオキシタラン繊維のないフリーゾーンと呼ばれる部分があるようで、これは歯の移動により歯根膜が狭くなっても、その幅が確保される。またオキシタラン繊維は圧迫側では繊維が集合して束が太くなるという特別な性質があるようだ。眼では水晶体の厚みを調整する筋肉にこの弾性繊維があり、老化と伴い水晶体自体の弾性が減少するとともに、周囲の筋肉、オキシタタラン繊維の減少も老眼に関与している。
先生には、化粧品会社が興味を持ちそうだから、是非、売り込んだら莫大な研究費が得られますよと言ったが、笑っておられた。実際に、皮膚を通して真皮にしみ込むのはコラーゲン繊維と同様できないので、何らかの刺激物質が必要なんでしょうと言っていたが、今後、競争の激しい化粧品会社では注目の物質であろう。
個人的に興味があったのは、歯の骨性癒着(アンキローシス)とこの繊維の関連であった。歯と骨(歯槽骨)が直接引っ付く骨性癒着はやっかいな症状で、こうした歯は矯正力では動かない。打撲や再植歯で時たまある症状で、骨ごとその部を移動させる方法もあるが、お手上げの症状であり、そのメカニズムはわかっていない。敦賀先生の理論によると、骨性癒着はオキシタラン繊維が関係しており、そのフリーゾーンがなくなると骨性癒着になるとしている。
どうしてオキシタラン繊維が歯根膜と水晶体周辺のみにあるのか、不思議である。共通点としては細胞のほとんどない歯と細胞のない水晶体につながっている点ではあるが、顎関節や他の骨関節の関節円板周囲には発見されていない。また骨性癒着についても、顎関節でも骨性癒着はおこるが、全く可動しないわけではなく、歯の骨性癒着は歯のごく一部に起こっても、骨と歯が完全にくっついた状態になり、その機序は違うように思える。
不思議な繊維で、今後の敦賀先生の研究が期待される。
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