NHKのファミリーヒストリーは好きな番組で、初回からほぼ欠かさず、見ている。これまでのシリーズで面白かったのは、俳優の浅野忠信、落語家の桂文枝、歌手の森山良子の回である。桂文枝さんの場合は、番組をきっかけに父親の遺骨が発見されるという偶然があり、それが視聴者の感動を呼び、番組的に成功した。一方、浅野忠信さん、森山良子さんの場合は、関係者が海外にいたため、内容が日本にとどまらなかったことが他の回と異なり、面白かった。
この番組の人気は、NHKの調査能力の凄さに尽きる。ゲストですら知らないことを番組スタッフは文献、インタビューなどで丁寧に追っていく。おそらく民間探偵による家系図調査とは次元が異なり、小さなパズルを集めて組み立て一つの作品を完成されていく。これだけシリーズを重ねると、番組調査スタッフもかなり手慣れていて、大まかな流れは出来ているのだろう。まず、ゲストから戸籍謄本の委任状をもらい、そこからどんどん先に先祖を調べていく。太平洋戦争中の空襲で戸籍原簿がなくなっているところもあるが、大体は明治から幕末までたどられる。そこから先は、菩提寺にある過去帳や家系図から当りをつける。大正から戦前の昭和までのある時期、日本では家系図作りははやった。自分のルーツを知りたいと思ったのだろう。私の実家である広瀬家でも祖母が過去帳から家系図を作った。以前、この家系図を調べたことがある。永禄、元亀というから1550年頃以降の流れは正しいが、それ以前のものは、世間に流布している藤原鎌足からの系図をくっつけた全くのデタラメであった。名古屋から徳島県吉野町西条に流れてきて、そこで350年間、中小規模の百姓として暮らした。全く有名人はいない。こんな家を番組で扱っても全く面白くない。
ファミリーヒストリーでは視聴者からメールが送られるようになっているので、以前、“須藤かく、阿部はな、成田一家の子孫のことを調べる逆バージョンのファミリーヒストリーをしてほしい”とNHKに伝えたことがある。私の本でも書いたが、須藤かく、阿部はな、成田一家について、現在、わかっている子孫はアメリカ、テネシー州、ナッシュビルの住む方で、渡米した成田ヨソキチの孫にあたり、すでに90歳を越えている。ヨソキチの長女は若くして亡くなり、次女は二人の息子がいたが、一人は第二次世界大戦で戦死し、もう一人も独身のまま亡くなった。三女には二人娘がいて、その一人はナッシュビルにいる方で、子供はおらず、妹は不明、四女は晩婚で、子供はいないまま亡くなった。長男は不明であり、今のところ子孫がいるかもしれないのはこの長男の家系のみである。須藤カクについては、伯父さん、弘前藩の須藤勝五郎の子孫がいると思うが、不明である。阿部ハナについても、相模原出身の可能性があり、子孫がいるかもしれないが、当然、いても渡米した阿部ハナのことは知らないだろう。
昔は、第三者でも戸籍簿が取れたが、今は親族でなくては戸籍をとれず、
ファミリーヒストリーでも担当者が親族の委任状を得て戸籍をたどっているのだろう。ただ在米の日系アメリカ人の戸籍をたどれるかというと漢字名が不明であり、海外移民のビザを外務省に問い合わせ、成田ヨソキチの出身、漢字名を知り、その孫、あるいは曾孫の委任状で、何とか、成田一家の、さらに成田ヨソキチの妻、マヨから、須藤家の戸籍も少したどれるかもしれない。一方、阿部ハナについては、神奈川出身の父、阿部定右衛門を先祖に持つ阿部家をひたすら探すしかない。阿部姓は多く、かなり困難な作業となる。
番組構成は、まずこれまでわかっている須藤カクと阿部ハナの生涯を解説し、その後、アメリカ在住の子孫のインタビュー、さらに外務省、日系移民センターなどでの調査風景、そこから須藤カクの子孫を探す旅、そして相模原の調査、それにより発見される阿部ハナの子孫、日米の子孫同士の再開、そして須藤カクと阿部ハナの墓を訪れ、番組は終わる。1時間半くらいのいい番組ができると思うのだが。是非、“ファミリーヒストリー 逆バージョン:明治にアメリカに留学した女医、須藤カク、阿部ハナのファミリーヒストリー”を作ってほしい。誰にも知られていない、数奇な一生、海外を含むスケール、さらに子孫に須藤、阿部以外に面白い人物がいれば、さらに厚みがでるのだが。実際、成田一家の渡米後の家族の歴史は、そのまま日系アメリカ人の苦労の歴史と一致し、これだけでも充分にドラマにできる内容を持つ。
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