2021年4月1日木曜日

マウスピース型矯正装置による治療に対する日本矯正歯科学会の見解

 


 自費患者の確保と矯正知識がなく、機材がなくてもできる矯正治療法として、マウスピース型矯正治療が非常な勢いで増加している。歯科向けの経営コンサルタントが、こうしたマウスピース型矯正装置を使った治療法を経営手法として一般歯科に勧めているため、導入する歯科医院も増えている。歯科医も、マウスピース型矯正装置をブラケットなどの従来の矯正装置が不要な治療法として、そのまま信じ、単純に導入する。結果、治らず、患者からクレームが来るが、これ以上、治療はできないと答え、料金の返却はない。患者からすれば、治ると言われて治療を開始したのだから、それで治らないと怒るのは当たり前であろう。一方、人間の体を対象にする医療には必ず“医療の不確実性”があり、同じような治療法をしても結果が異なる、治らない場合がある。ガンの標準治療法が決まっていて、70%の患者に有効であっても、残り30%の患者では有効でない場合がある。これと同じように矯正治療をしても、例えば、骨性癒着(歯が骨とひっつく)の場合は、歯が動かず、治療はうまくいかない。さらに上の前歯を中に入れようとしても舌が邪魔をしてなかなか入らないケースもある。こうした不確実な面は、名医であってもありうることであり、マウスピース型矯正の失敗もそうした面から言い訳する先生もいる。ただ専門医は、うまくいかないケースは最初から回避するし、さらにそうしたことが起こっても他の治療法による対処を考える。まず検査、診断によりマウスピース型治療法の適用かどうかを調べる。以前に比べて歯にレジンによるアタッチメントをつける方法が一般的になったことで、マウスピース型矯正治療法、インビザラインの治療範囲もかなり広がったが、日本矯正歯科学会では一応の指針を挙げているのでここに載せる。

 

欠点

  歯の移動量の少ない症例に限られる(軽度の乱杭歯、軽度の歯の空隙、矯正治療後の軽度の後戻りなど)。

  毎日長時間の装着を必要とし、使用状況によって効果が大きく異なる。

  小児や骨格性要因を含む症例には適さない。

  現在の医療水準で考えれば精密な歯の移動は原則として困難で、満足のいく治療結果が得られない可能性がある。

利点

  他人から見えにくい装置である。

  装置の着脱が簡単で食事や歯磨きがしやすい。

  金属アレルギーを有する方も使用できる。

  診療室でも治療時間が比較的短い

 

 日本矯正歯科学会の見解に関しては、インビザラインを多くしている先生からは異論もあろうが、それでも学会のこうした見解は、もし訴訟になった場合に大きな力を持つ。ましてやマウスピース型矯正装置は医薬品医療機器等法の対象外のものであり、その使用に際してはこれまでの矯正装置以上に十分な注意と患者への説明が必要となる。

 

 マウスピース型矯正装置による治療を受ける方は、少なくともこの日本矯正歯科学会の見解と薬機法対象外のことについて先生に説明を求めるべきであり、十分な治療実績をもつ先生であれば、こうした問いに対しても納得のいく説明をするであろう。少なくとも専門学会の見解で推奨されていないこと、薬機法対象外の治療をするなら、医師にもそれなりの覚悟と自信が必要である。中にはセファロ分析などの矯正診断なしで、マウスピース型矯正装置を使う歯科医院もあるが、論外であり、やめた方が良い。

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