私がいた鹿児島大学歯学部矯正歯科では、医局員のバイトは中止していた。というのは医局員が矯正治療のバイトをすると、途中で中止できず、誰かが継続してバイトしなくてはいけないからだ。ただ大学院生は無給のため、バイトが必要となる。この場合も必ず、矯正治療をするな、一般歯科のバイトをするように、万一そこで矯正治療をしてもその後始末はしないと注意を与えた。その後、矯正歯科専門で開業するOBが増えたこともあり、OBのところでのバイトのみ矯正治療はしても良いことになった。現在の医局の状況を見てみると、多くの大学院生はOBのところで働いている。
一方、私立大学の場合、矯正歯科ではなかなか有給の助手や講師になれず、給料の良い一般歯科での矯正治療バイトが普通であった。一回行くと十万円くらいのバイト代がでた。月に一回としても二軒バイトすれば20万円で、何とか生活できる。ところが矯正治療の宿命で、途中で辞めたいといっても後任が決まらなければやめることができない。宮崎で開業している知人も、大学でバイトしていたところでの治療のために10年くらい、東京に出張していた。最後の二年くらいは無償で残りの患者の治療をしていた。こうしたケースは非常に多い。開業しても前のバイト先の治療をしているケースは、ごく普通のことである。
矯正歯科医のないところであれば、月に1回でも矯正歯科医が来てくれると、患者にとっては便利である。ところが弘前のように専門医が3軒もあるところであれば、こうした歯科医院に行く必要性はかなり低い。まして月に一回で、来院日も決められ、トラブルになった時に対処も難しい。以前は、東京から来る矯正歯科医であれば、玄関に“東京から来ている矯正専門医”と宣伝できたが、今時そうしたありがたみもない。さらにバイトに行く矯正歯科医からすると、自分の医院の休みの時に遠くにバイトに行くのは面倒である。
今のバイト料はいくらくらいわからないが、東京から来てもらうなら交通費や宿泊費も含めるとかなりの額となる。それを支払うとなると、月一回としても年間の矯正患者数は20名以上欲しいところである。もちろん他院からの紹介はなく、自院の患者の中から矯正治療をするから、もともと多くの患者が来ている必要がある。さらに今時は相談に来る患者で、実際に治療するのは半分くらいなので、年間、自院に40名以上の矯正患者が来るのはかなり難しい。おそらく矯正歯科医のバイトに雇っている一般歯科医院では、それほど経営的にプラスになっていないであろう。
こうしたこともあり、最近は一般歯科で矯正歯科医をバイトに雇うところも少なくなり、逆に医局員や大学院生も給料よりも専門医のところでバイトした方が勉強になるために、ここを希望する。私も開業する一年前に一般歯科で勤務したことがあり、ここでは矯正治療を行なっていた。ところが歯につける矯正器具、ブラケットにしても1個外れても、10個入りのものを買わなくてはいけず、その他の機材や器具にしても実にコストがかかり、不経済であった。こうしたことも矯正機材やバイトの矯正医を必要としないインビザラインなどのマウスピース矯正が流行っている理由であろう。ましてやコロナ感染のため、人の移動が限られてくると、東京から月に1度としてバイトにくるもの難しくなり、結果的に患者に迷惑をかけることになる。以前は、矯正歯科専門歯科医院、矯正歯科医がバイトで治療する歯科医院、一般歯科医に分れていたが、最近では矯正歯科専門歯科と一般歯科の二つになり、一般歯科でも小児矯正に特化したところとマウスピース矯正を主体とする歯科医院に分かれてきている。いずれも矯正治療の基礎的な知識や手技(セファロ分析、ワイヤーベンディングなど)がない先生が多く、それによるトラブルが散見する。
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