2022年6月6日月曜日

今後のビジネスとしての、矯正歯科を勝手に検討する。

 



 

1.     買手、市場

 数十年前に比べると、歯並びに対する関心は高くなり、多くの若者は歯並びが気になって治したいと考えている。そもそも歯並びが悪い人の比率は、かなり悪い人が20%くらい、少し悪い人は40%くらいいて、両者合わせると、全人口の60%が、歯並びが悪いと言っても良い。逆に全くでこぼこもなく、口元も出ていない、理想的な歯並びの人は数パーセントしかおらず、それ以外の人は潜在的な矯正患者といえる。このうち、実際に矯正治療を受ける頻度はアメリカでは50-70%くらいであるが、日本ではせいぜい20%程度であり、最近の矯正をする人の急激な増加をみると、今後はアメリカ並みの治療開始率になっていきそうである。虫歯のない子供、若者も多いことから、子供、若者世代を中心にすれば歯科の分野では矯正治療が今後の柱となる。

 

2.     売り手、提供者

2015年度の調査によれば、矯正歯科を標榜する歯科医師数は、約27000名、矯正歯科学会の会員数は6500名、日本矯正歯科学会認定医は3300名、臨床指導医は350名ほどとなる。全国の歯科医院数68000軒のうち、半分近くが矯正歯科を標榜している。さらに矯正歯科のみに従事する矯正歯科専門医院は、およそ2000軒で、青森県で言えば、八戸市に1軒、青森市に3軒、弘前市に2軒の計6軒である。今後、日本歯科専門医機構が認める専門医しか広告に掲載できないため、日本矯正歯科専門医機構、矯正歯科専門医が主体となるが、初年度で300名、最終的には1000名程度と予測される。

 

3.     市場拡大への阻害材料

1)     高い料金

 患者需要が多いが、実際に治療する割合が少ない一番の要因は、価格の高さにある。マルチブラケット装置による本格矯正で60-100万円、見えない裏側からの舌惻矯正で100-150万円、透明なマウスピースによるアライナー矯正で40-100万円と高額である。アメリカで矯正治療をする人が多い理由として民間保険で治療費の半分ほどがカバーされ、子供の場合、実際の支払いが2000-3000ドルくらいとなる。おそらく日本でも矯正治療費が総額で30万円以下であれば、治療希望する人は相当増える。できれば小児の反対咬合など健康保険適用となると普及の弾みとなる。

 

2)     期間

矯正治療は、月1回の通院であるが、平均的には約2年間の動的治療を要し、さらに治療後も後戻りを防ぐ保定期間が必要となる。少なくともさらに2年間の保定が必要で、計4年間の治療期間がかかる。就職、転勤、進学など、動的治療のために2年間、拘束されることはいろんな場面で問題となる。できれば一年以内で動的治療は終了すべきである。

 

3)     見た目

矯正装置は、金具が外に見えて、見た目が気になり、できれば治療をしているのがわからない装置にしてほしいという要望は多い。50年前であれば、全ての歯にバンドを巻いた、全帯環装置という矯正装置であったが、歯に直接、接着剤でくっつける方法が発明された。さらに30年ほど前にはセラミックでつくられた歯と同色のブラケットも登場し、今では成人患者のブラケットはこうした透明、歯と同色の審美性ブラケットとなっている。また歯の内側に装置をつけた舌側矯正装置もでき、10年ほど前からはマウスピースを用いたアライナー矯正も登場した。見た目で言えば、舌惻矯正>アライナー矯正>唇側矯正(審美性ブラケット)の順番となる。

 

4)     不快感、疼痛、発音障害

唇惻矯正では装置を入れてから1、2週間の痛みがあるが、それ以降は慣れてくる、また発音障害はほとんどない、舌惻矯正も同じく、1、2週間の痛みがあり、慣れてくるが、発音障害、舌の違和感は強い。アライナー矯正も痛みは同じで、発音障害、舌の違和感は舌惻矯正よりは少ない。こうした問題は唇惻矯正<アライナー矯正<舌惻矯正の順となる。

 

5)     その他

きちんとした結果が得られる確実性。自分が希望する、理想的なかみ合わせ、口元、顔貌になってほしいというのは患者の最も希望するものであり、これが達成できないと満足感は乏しい。今の所、アライナー矯正について適用は限られ、最終的な結果も不十分であることが多い。

 

これらをまとめると、患者はできるだけ安くて、期間が短く、目立たず、痛くなく、希望するような結果を得られる治療法を切望していることになる。

 

 

現在の矯正治療法は、昔からある唇惻ワイヤー矯正治療、舌惻ワイヤー矯正治療、アライナー矯正治療の3つに分けられる。

 

費用で言えば、舌惻矯正>アライナー矯正>唇惻矯正の順となり、期間の点ではアライナー矯正>舌惻矯正>唇惻矯正、目立たない点では、舌惻矯正>アライナー矯正>唇惻矯正、痛くないあるいは不快感という点では、舌惻矯正>アライナー矯正、唇惻矯正となる。希望する治療結果というのは術者の腕に起因するが、唇惻矯正>舌惻矯正>アライナー矯正と言える。

 

アライナー矯正は、メーカーによりいろんなタイプがあるが、適用が広いインビザライン社のものでいうなら、技工料が20-30万円かかるために、料金を30万円以下にすることはできない。他のメーカーのものはもっと技工料が安いために料金も安くできるが、適用はかなり限定されてくる。

 

料金を30万円以下にするのであれば、現状では材料費の安い、ワイヤー矯正が強い。飲食店の原価率が30%程度であり、これを基準にすれば30万円の矯正治療費でも、十分にペイできる。逆に言えば、アライナー矯正については技工代が25-30万円とすれば、原価率から90万円以上の料金となる。医院でのコンピュータ、ソフト、3Dプリンターで、現状のインビザライン並みの精度が作れるなら、原価率は安くなる。

 

確実性の高い治療結果を得るには、これも唇惻矯正が優れている。舌惻矯正については一部の先生は、ほとんど唇惻矯正と全く変わらない安定した治療結果を達成できるが、全体のレベルとしては唇惻矯正に軍配が上がる。またアライナー矯正に関しては、まだまだレベルが低い。治療期間の点でも、舌惻矯正と唇惻矯正は、それほど変わらないが、アライナー矯正は期間がかかる。

 

アライナー矯正がさらに進歩して、技工料が今の1/3になるか、自院で設計、製作ができるようになれば、最も安価な治療法になる可能性があるが、インビザライン社は特許でライバル会社を締め付ける可能性がある。むしろ簡単なケースであれば、スマイルダイレクトクラブのような歯科医院ではないショップによる治療が伸びる可能性が高い。最近の経営手法としては、低価格大量販売ではなく、きちんと利益を見込んだ継続的な経営が重視されており、そうした観点では手頃な価格、総額で考えると、唇惻ワイヤー矯正およびインビザラインが40万円くらいであれば、かなりの集客が望めそうである。アメリカなどでは、1日の患者数が300人以上という巨大な矯正歯科クリニックがあり、一人の先生で、十数名の助手を使って治療している。まだ日本ではこうした大型店は少ないし、またチェン店の展開も少ないが、材料費や勤務医教育も含めて、スケールメリットが出てくる。ただ20年ほど前にOCAという会社が、患者紹介システムを作り、加盟店向けのテレビ、雑誌CMをかけて集客したが、結局は10年ほどで、破綻し、撤退した。未だにこの時の関係者が、矯正に特化した経営アドバイサーとして出ていて、今はアライナー矯正を盛んに取り上げている。全く失敗に懲りない面々である。

 






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