2011年2月9日水曜日

歯科臨床研修医



 私のところでも歯科研修医を受け入れて5年くらいになります。私らの頃は、歯学部は6年間の教育を受け、国家試験に合格すれば一人前の歯科医となりましたが、今は医学部に準じて、6年間の歯学部教育後に1年間の研修医制度を受けて初めて歯科医となります。つまり従前より1年間余計にかかることになります。

 最新の高度な歯科学、臨床をマスターするのは6年間では足りない、もっと勉強が必要だということで、この制度は始まりました。ところが、研修指定機関でありながら、こう言いたくはないのですが、これまで来た臨床研修医を見ても、その臨床レベルが大変低い。

 1年間従前より余分に勉強しているのだから、当然以前より臨床レベルが高いはずなのですが、そうではありません。口の型を採らせても、衛生士学校の新卒の方がましなくらいで、とてもうちの場合、患者さんを見てもらうことはできません。そうは言っても全く患者さんに触らせないこともできないので、時折、臨床医に治療を手伝ってもらうが、大抵はうまくゆかず、もう一回することになり効率は悪いし、最近の患者さんは「あの先生には今後治療させないでください」と直接苦情がすぐにきます。

 どうしてこういうことになったかというと、これは臨床研修医自身には全く責任はなく、大学に責任があります。大学6年生、昔はこの最終学年は臨床に明け暮れ、また国家試験にも実技試験がありましたので、その練習も大変でした。それまで5年間は、座学や実習などで勉強しますが、最終学年で実際の患者さんの治療を行うことで、知識と技術が一致します。それこそ寝る間もないほどこの時期しごかれます。それが終わり、12月ころから国家試験の勉強を、実技試験の練習も含まれますが、して卒業します。このやり方は、欧米も含めて世界各国共通のやり方です。

 それでは今の制度はどうかというと、最終学年の6年生はほとんど国家試験対策に追われます。患者さんを見ることはなく、あくまで見学だけで、ほとんどの時間は予備校と同じく勉強のみです。そうして国家試験に合格して研修先で初めて患者さんをみます。これまで一年で国家試験の準備と臨床実習を行っていたのを、6年生は国家試験対策を、研修医になって臨床実習ということに分けた訳です。

 日本の歯科教育はおそらく治療のうまい優秀な歯科医を作るという点では世界最低でしょう。6年間の歯学部教育を卒業した時点で、アフリカ、東南アジア、アメリカ、ヨーロッパの学生に患者の治療を行わせ、その臨床能力を採点させれば、日本の学生はダントツのビリです。何しろこの時点では患者さんを見たこともないのですから。それでは日本の学生だけ、1年余分の研修医を卒業した時点で参加したとしましょう。それでもやはりビリでしょう。研修医になっても十分な患者を配当できず、ほとんど臨床経験がないからです。

 歯科大学は入学者の減少による廃校を恐れ、国家試験合格率を上げようと懸命です。その結果、本来歯科医にとって最も必要な臨床実習を無視し、世界で一番治療のできない歯科医を量産している罪は大きいと思います。今やロボット患者さんに対する模擬診療もあるようですし、歯に近い固さの人工歯も開発でき、患者さんなしでも、臨床実習は十分可能でしょうし、学生同士の相互実習、例えば口の型取り、レントゲン撮影、口腔内写真などももっとおこなうべきでしょう。厚労省も一刻も早く、新たな臨床実習試験を国家試験に導入してほしい。そうすれば今の歯科大学の座学に偏った国家試験向け予備校化は多少改善できると思います。

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