2011年6月9日木曜日

震災後の歯科医院の復興



 今回の大震災で、一番印象的なことは、日米の危機管理能力の違いである。阪神大震災の経験があったとはいえ、これほど大規模な自衛隊の災害派遣は過去になかった。震災から3か月過ぎたが、未だに多くの自衛隊員が現地に滞在して、活動しており、頭が下がる。それでも仙台空港の開通のためのアメリカ軍の作戦は、まず落下傘部隊が器材と人員を投入し、最小限の滑走路の整備を行い、その後輸送機でさらに大量の人員と器材を運び上げ、極めて短期間に空港を使用できるようにした。そしてここを災害の活動拠点にした。これは戦争時の空港制圧に準じる作戦であり、なかなか自衛隊にはできないことであった。また空母や強襲揚陸艦の投入は被災地への物資の補給に非常に役立った。

 こういった非常時での活動は何も米軍だけでなく、歯科医療活動でも同様である。アメリカ歯科医師会や歯科大学でも携帯用歯科ユニットやチェアーを用意し、南米、アフリカなど世界各国でボランティアの歯科診療を行っているし、アメリカ国内でも歯科治療を受けられない貧しい患者さんに大型の歯科診療バスを派遣して治療を行っている。

 私自身が感心するのは、まず器材の違いである。今回の大震災では岩手医大、東北大学はじめ、各県の歯科医師会が医療チームを派遣し、被災地での緊急処置を行って来た。その際、持参したものは主として在宅医療用のユニット、器材が中心となる。これらの機械は先生と衛生士が在宅患者の家を訪問し、そこで義歯の修理や抜歯などを行うためのもので、多数の患者を集めて治療するようにはできていない。またチェアも既存のものを使用するため、頭が固定できず、また立位での診療となる。今の先生はほぼ 100%座って治療しているため、こういった状況では治療が非常に難しい。簡単な処置しかできないのが現状であろう。

 それに対してアメリカの出張診療の写真をみると、確かに重い診療ユニットやチェアーはバスなどで診療しない限りは使用できないが、折りたたみ式の歯科ユニットも水平診療ができるようになっているし、診療ユニットも連続的な使用が可能なものになっており、かなりの範囲の治療が可能である。訪問診療用の歯科器材と災害用のものは多少違うように思えるし、そういった点からすれば、システム、器材ともアメリカの方が優れている。今回の震災を契機にアメリカのシステムを勉強した方がよい。

 すでにこのブログで何度も紹介したアメリカ、オレゴンのA-decという会社のポータブル歯科ユニットとチェアーは、すでに30年以上生産され、アメリカ軍野戦病院の主要パーツとして多くの場所で使われてきた(自衛隊にも供給されている)。最も優れている点は、すべての機械が空気圧のみで動く点であり、小型の発電機とコンプレッサーがあれば、どんな場所でもすぐに使える。水の供給はボトルから供給されるし、唾液などの排出物も別のボトルに蓄えられる。構造が簡単で、部品を容易に揃えることができるため、過酷な状況下でも使用が可能である。ただし非常に重い。

 このa-decの会長さんは、オレゴンのNewbergロータリークラブのメンバーでもあり、このロータリークラブでは無償でボランティア活動をしている歯科医師の団体に対して、これらの歯科ユニットとチェアーを採算度外視した価格で販売し、それらの活動を支援している。今では歯科用タービンメーカであるオーストリアのW&Hという歯科医なら誰でも知っている会社もメンバーとなり、Rota-Dentという組織を作り活動している(http://rota-dent.org/)。その価格はPac-1という持ち運び可能なユニットが1850ドル、歯科用チェアーが1200ドル、タービンが130ドル、エアーモータが200ドルと一桁違う価格で提供している。これは会社の社会貢献としてはすばらしい。

 今回の震災では多くの歯科医が診療所を失ったり、修復不可能な状況になった。若い先生は新たな診療所を作る気力もあろうが、私のような50歳、60歳以上の先生はなかなか気力がわかないであろう。さらに町が壊滅的な被害があったところでは、新たな町づくりが動き出すにはまだ何年もかかる。こういった状況で例え仮診療所を作ると言っても、歯科診療ではユニットの設置には配管が必要となり、結構な金がかかり、躊躇してしまう。

 ひとつの提案として、上記a-decのポータブル器材を県歯科医師会や日本歯科医師会で購入し、それを半年あるいは1年単位で希望者に貸し出す制度はどうであろうか、簡単なプレハブやビルの一角で電気さえあれば診療できるのであれば、仮診療所を躊躇している歯科医もやりやすいのではなかろうか。それである程度めどがつけば、もっと本格的な診療所を作ればよい。細かい器材や材料は歯科医師会会員に呼びかければ集まるだろう。とにかく看板を出し、一刻も早く診療を始めることが被災された先生方にとってもっとも大きな励みななるように思える。さらに復興が一段落した時点でも、それらの機器は在宅診療や、今後発生するであろう災害時にも活用できるであろうし、もっと言うなら、歯科学生に診療の経験を積ませるため、発展途上国へのボランティア活動にも使える。

 政府、歯科医師会でも被災した歯科医師の復興の具体策としては融資を中心に考えているようだ。テレビで久慈港に函館から200艇以上の小型漁船が寄贈され、漁民が明日から漁ができると大変喜んでいるニュースがあったが、もっと具体的な復興方針、例えば仮設診療所で診療をしたいニーズがあれば、必要な器材を貸し出したり、会員の寄贈をお願いしたりして、一刻も早い開業のお手伝いをするようなプランを作るべきだと考える。

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