2011年8月7日日曜日

東日本大震災における自衛隊



 東日本大震災における自衛隊の活動は目覚ましく、これほど大規模な動員は太平洋戦争以来始めてのことであり、有事における自衛隊活動でこれほどの貴重な経験を得たことは大きな財産となったであろう。

 阪神大震災に比べて初動スピードが格段に向上し、第七艦隊のジョーンズ准将によれば、沖縄にいた4隻の海上自衛艦は地震発生後、わずか15分で出航したようで、「世界の海軍の中でも、海上自衛隊ほど迅速な出航ができる海軍はいないでしょう。私は34年間勤務していますが、あれだけ素早い反応を見たのは初めてです」とお世辞も含めて感嘆している。実際、横須賀港にいた護衛艦「はるさめ」は、地震から10分後には護衛艦隊司令官が全艦出航の命令を出し、その後1時間後には速度制限12ノットの浦賀水道を27ノットで航行し、約12時間後には目的地の陸前高田沖に到着した。またまた佐世保基地所属の護衛艦「くらま」は同様に夕方には出航し、最大速度31ノットで鹿児島を回り太平洋に出て、13日に目的地の石巻沖合に到着した。

 一方、陸上自衛隊は陸路からの各地からの救援が道路の寸断により阻まれ、初期の活動は岩手、宮城の第6師団、第9師団が主力となった。それでも愛知県の第10師団は震災の翌日の12日には現地の到着し、驚くべき迅速さは防衛省内部で豊臣秀吉の「中国大返し」になぞらえる声もあったようだ。福岡の第4師団も13-14日には現地に到着し、ほとんどの師団は13から14日には移動を完了し、現地での救援活動に従事した。これほどの兵力を短期間に結集出来た動員力は特筆すべきことと思われるが、多くの部隊はトラックによる陸路による移動であり、移動による体力の消耗を招いた。

 「世界の艦船」の9月号に読売新聞の勝股秀通による「東日本大震災にみる軍事的教訓」という記事が載せられ、自衛隊の活動を評価する一方、沖縄・南西諸島などの離島防衛に直結する「戦略機動」の脆弱さを指摘し、その問題点として1.海上輸送能力、2.情報収集能力、3.核対処能力を挙げている。的確な指摘である。当初、遠方から軍の移動は海上自衛隊の大型輸送艦を使う予定であったが、震災時すぐに使えるのは「くにさき」しかないため、急遽民間のフェリーをチャーターすることにしたが、即座に提供できフェリーは一隻もなかった。たまたま津波により運行を取りやめたフェリーを使って輸送にまわしたが、ここでも民間フェリーに人員と燃料を一緒に混ぜて載せることは「危険物船舶輸送貯蔵規則」にふれるため、その調整に手間取り、結局超法規扱いになったが、それでも船舶会社の許可が出ず軽油しか運べず、肝心の石油は自衛隊の小型輸送艦にてようやく輸送できた。

 勝股氏も述べているように、ここは民間船の活用を検討してほしい。36ノットの高速を誇る高速輸送船はすでにオーストラリアで建造され、青森—函館間でフェリーで活用されているナッチャンReraがあり、現在石油の高騰により運行休止中である。1746名の搭乗と、普通自動車195台とトラック33台を短時間で運べる能力は離島防衛、国内および海外での災害援助にはもってこいのもので、価格も建造時で90億円、中古なのでこれの数分の一で購入できる。すでに中国も触手をのばしており、軍用に改修して戦力に加えたい。また病院船についても、何も新造船が必要な訳でなく、高速の客船を改修して使う方法もある。ただ港も破壊されていることを想定すると、ヘリコプターの搭載可能であった方がよく、輸送船に関しては、おおすみ型を増やすか、先の高速輸送艦を新造する場合はヘリ用の甲板もほしい。

 情報収集能力については、偵察衛星の活用で大まかな画像収集はできるが、やはりリアルタイムの限局した場所の情報収集においてはアメリカ軍の能力には歯が立たない。今回の震災においてもアメリカ軍の無人偵察機グローバルホークが写した原発の被害状況の映像がニュースでも流れたが、この無人機の極めて優れた能力は高度15200メートルという高度で30時間以上も飛行でき、その間リアルタイムに画像や収集した情報を送ることができる。こういった能力は到底有人の飛行機では難しく、まして戦時の状況を考えると、どうしてもほしい機種である。幸い自衛隊でも3機購入の方向で協議されている。また2020年以降に開発が予定されているアメリカ軍の第6世代の戦闘機は無人機、あるいは遠隔操作航空機になるようで、そういった意味からも自衛隊においても無人機の開発が必要となろう。

 被災地における自衛隊の役割は非常に大きく、住民からも大変感謝され、信頼されているが、その割にはテレビや雑誌、新聞における取り扱いは小さく、未だマスコミの軍隊に対する拒否感は強い。今回のブログで参考にした雑誌「東日本大震災 自衛隊・アメリカ軍全記録」(ホビージャパン)も実は、普段はプラモデルなどを扱う趣味の出版会社で、朝日、読売などの大手出版社はあまり自衛隊には関心がないようだ。

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