友人から、母親が入れ歯が痛くて、食事ができず、困っている、どこかいい歯医者はいないかという電話があった。これまでも名医と言われる先生を訪れ、、その度に新しい入れ歯を作ってもらったが、やはり痛くて食事ができず、ミキサー食を食べているようだ。これは深刻であると感じたが、同時に多くの歯科医で見てもらっても直らないのは精神的な問題があるのではないかと思った。そこで友人に聞いてみると躁鬱傾向があるとのことで、それではということで心療歯科という特殊な科がある病院を紹介した。
その後、音沙汰がないので、先日、聞いてみたが、2、3ヶ月間、遠方にも関わらず、紹介された病院に連れていったが、効果がなく、今はミキサー食のかわりに柔らかい介護食を食べているとのことである。
老人の場合、降圧剤や精神安定剤などの薬を飲む場合が多く、こういった薬には唾液の量を減らす副作用がある。それでなくても歳をとると唾液の分泌量は減る上に、薬でさらに減ると、いわゆるドライマウスの状態となる。こうなると、いくら名医が作った入れ歯でも少し当たるだけで痛いとなる。おそらく友人の母親も精神的な問題だけでなく、こういったドライマウスによるものもあろう。ドライマウスに対する根本的な治療法はなく、何とかしてやりたいが、助言を控えている。
歯科医には“レスキューファンタジー”という幻想が名医になればなるほど持つ傾向がある。他の先生には治せないが、私には治せるという幻想である。それ故、こういった患者がくると、それは気の毒だ、やってみないとわからないが、がんばりましょうと治療を開始する。実際はそんなに甘いものではなく、うまく治らず、そのうち患者が来なくなってお終いとなる。できなければ最初から断ればよさそうだが、何かやってしまうためこちらも紹介しにくい。
人間の五欲として、食欲、睡眠欲、性欲、名誉欲、金銭欲といわれるが、後者3つに関しては、歳とともに減少するし、仮に無くなっても、別に問題はない。ところが食欲と睡眠欲は深刻な問題となる。寝なければ、本当に疲れるし、睡眠薬などを使っても何とかぐっすり眠りたいという欲求は強い。私も寝れない時は、こういった薬も飲むが、一方、睡眠が欲望かと言われるとどうかと思う。睡眠は生理的なものであり、欲望といわれてもぴんとこない。となると五欲のなかで最も大事なものは食欲となる。食べれなくなると、すべての動物は死ぬ。といって人間は食べるだけでなく、おいしいものを食べたいと思う。これは欲であろう。食い意地ともいう。病気で入院していても、回復後、もっとも強い欲求は、食欲であり、睡眠欲、性欲、名誉欲、金銭欲ではない。生と最も近接した欲求であり、これと関係する歯科の仕事は重要であろう。先に友人の母親にしても、歯の喪失がなければ事態はこれほど悪くはならなかったであろうし、高血圧、糖尿病、リューマチなどの慢性疾患を比べてでも、歯の疾患は簡単に予防できる。
そういった意味では、60歳からでも決して遅くなく、腕が確かで、面倒見のいい歯科医を見つけ、3ヶ月に一回でもいいから定期検査を受けることで、食に対する興味は死ぬまで失わないことができよう。おいしいものを食べることこそ、本当に大事である。
近くの石田パン屋がリフォームし、息子さんがドンクで修業して、新しいパンを作っている。大正14年創業の青森県で最も古いパン屋だが、これまでの伝統的なパンだけでなく、新しいパンも売られている。プレオープンで何回か食べてみたが、もちもちしておいしい。これも食い意地か。是非食べてみてください。
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