2013年6月18日火曜日

デーモンクリア


 デーモンブラケットはアメリカのOrmco社の製品で、結紮が必要ないセルフライゲーションブラケットとしては、むしろ後発の製品である。鹿児島大学にいた時だから、30年前にもOrmco社からエッジロックというブラケットが発売され、鹿児島大学矯正科では当時、すべての症例で、このセルフライゲーションブラケットを使っていた。このブラケットは円形の形をしており、専用の工具で真ん中の刻みをねじるようにして開放する構造となっている。おそらく全国的にも全症例で使用していたのは鹿児島大学だけであったろう。

 10年ほどするとさすがに使うところも限られてきたせいか、教授が発明した新しいブラケットに切り替わったが、私が通常のタイプのブラケットを使ったのは、開業してからだ。

 デーモンブラケットは10年ほど前から市販されるようになったが、当初はこのエッジロックのニューバージョンとして紹介された。形が結紮もできるように四角になり、ウィングもついているが、基本的な構造はエッジロックと同じ構造であった。結紮がいらないことは、ワイヤーとの滑りがよく、治療期間の短縮に繋がるし、ブラケット廻りも清潔に保たれ、何よりもチェアータイムが短縮される。一方、大きな欠点は、材質的にはメタルしか使えなかったので、審美性に欠ける。これは出来るだけ目立たない装置を求める日本では、大きな問題となった。ドクター側からはメリットがたくさんあっても、患者にすれば、どうしてメタルにしなくてはいけないか、わからないからだ。

 ここでOrmco社は大きな失敗をしたように思える。つまりデーモンブラケットで治療すれば、治療期間をかなり短縮できると唱ったのである。こうでもしなければ、ことに成人患者でメタルブラケットを選択する人はいない。今でも一部の矯正歯科医、一般歯科医は、こういった特徴を全面的に出して、宣伝しているが、その後、学術誌での研究結果では、数ヶ月の治療期間の短縮ができる程度であることがわかってきた。鹿児島大学で10年近く、エッジロクを使った私の経験からしても、通常のブラケットより少しは早くなる程度であり、治療期間はどこまで治療するかという術者の意識によるところが多い。そういったことを証明する研究もある。

 Ormco社もそういった批判に沿うような形で、次々と改良を加え、製品はさらに進化し、一方、以前ほど治療期間の短縮を言わないようになってきた。ところが一度、広まった噂が消えないように、未だにデーモンブラケット信者が多い。電話の問い合わせでも、何人もの患者さんから「おたくはデーモンブラケットを使っていますか」と言われた。心の中では「デーモンブラケットがどうした」と思っていたが、「私のところは使っていません」と答えていた。こんなこともあって、すっかりデーモン嫌いになり、他社の半分白く、半分金属のセルフライゲーションブラケット(クリッピーC)を使ったりしたが、患者さんの評判は芳しくなく、結局は通常のタイプの審美性ブラケットを使っている。

 そしてようやくすべてセラミックででき、審美性に優れたデーモンクリアが登場した。これでようやく従来の審美性ブラケットと対等に立場となり、患者さんにも勧められるようになった。まだ耐久性など不明な点もあるが、あきらめずに開発したOrmco社の努力には敬服する。これで30年前に開発されたエッジロックあるいはカナダで開発されたスピードブラケットを越えた。ただスロットサイズが022のみなので、018しか使わない私のような矯正医にとっては、ワイヤーやチューブなどシステム自体も変えなくてはいけないので躊躇していたが、少しずつ使ってみようかと思っている。

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