90歳、男性
最近では、矯正治療の普及に伴い、軽度の不正咬合を主訴として来院する患者さんが増えています。多いのは前歯の少しのでこぼこ、ねじれなどです。こうした軽度の不正咬合は、マルチブラケット装置という矯正器具を使えば簡単に治りますが、問題はその状態で維持できるかということです。私たち矯正専門医も治療後、その状態を一生維持できるかと言われると、無理ですと言うか、保定装置を一生使って下さいと言うしかありません。実際、保定装置を一生使うことはありませんので、無理ということです。
私のところの患者さんも長期の患者さん、治療終了後、10年以上たつ患者さんがたまに来院されますが、多少の下の前歯のでこぼこがあっても概ね安定していればよしとします。数字で例えれば、理想的なかみ合わせが100点とし、不正咬合の状態が30点なら、矯正治療で90点にすることはできるでしょう。10年後、80点になっても、元々の状態が30点なら問題ないと考えます。これが60点まで下がっていれば、再治療の対象となりますが。もちろん80点でも患者が気になるようなら再治療をしますが。軽度の不正咬合の問題点は、最初の状態が70-80点であり、治療により90点になっても、10年後に80点になってしまうと全く治療の意味がなくなってしまいます。当然、患者は治っていないので不満がでるでしょうし、再治療を求めるでしょう。本来、かみ合わせが理想的な100点の人はほとんどいません。高校生のころに、でこぼこがなく、きれいな歯並びであっても、加齢に伴い、特に下の前歯がでこぼこしてきます。つまり100点の理想的なかみ合わせの患者さんはほとんどおらず、さらに一生、その状態が維持されることはないのです。80歳で、全くでこぼこもなく、きれいな歯並びの人はいません。
私の娘も、下の前歯が少しでこぼこしており、東京の一般開業医で虫歯に行くと、矯正治療を勧められたようです。本人はかなりその気になったようですが、親が矯正専門医であることをその先生に話し、上記の理由で反対していること、一生保証できるか、後戻りの場合の費用、転医システムについて説明をもらうように言いました。さらに意見があれば直接私の方に連絡するように伝えました。もちろん、矯正治療の話はそれっきりです。こうしたこともあり、多くの矯正歯科医は、こうした軽度の不正咬合については、後戻りのことを中心にくわしく説明し、了解してもらった上、治療に入りますし、保定に関しては相当に気を使います。さらに軽度の不正咬合で治療を希望される方は、神経質な方が多く、中には0.5mm以下のズレや歯軸のわずかな改善(トルク)を求める方がいます。外からの矯正器具であれば、何とかこうした患者さんの対応も可能ですが、インビザラインや舌側矯正の場合は、よほど臨床技術が優れていないとトラブルの原因となります。
もともと矯正治療は歯医者さんから勧められて、治療するものではありません。もし歯科治療で歯医者さんに行って、矯正治療を勧められたら、その先生の歯並びを見て下さい。多少の歯のでこぼこがあることでしょう。「先生はどうして矯正治療しないのですか」と質問してください。もちろん60点以下の歯並び(10人の人に見せて、皆から歯並びが悪いと思われる)で、それがコンプレックスに感じている人は、矯正治療をすることをお勧めします。当然ですが、点数が低いほど、治療の必要性は高まります。
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