2017年3月10日金曜日

シャーロット・ランプリング「さざなみ」



 ツタヤの宅配DVDを使ってもう78年になるか。毎月4本ずつ、自宅にDVDが送られてくるので、少なくとも年間で24本の映画を見ていることになる。昔は年間100本を、それも映画館に見に行っていたことからすると、少なくなった。それでも最近はあまり見たいと思う映画は少なく、新着ビデオの中からヨーロッパ、アジアの小品を選んでいる。これらの作品は上映館も少なく、青森ではなかなか見られない。

 昨日は、かぜにかかって一日中家いたので、イギリスの「さざなみ」という映画を見た。これがなかなか怖い作品でぞっとした。

 結婚45年目を迎える老夫婦。そこに一通の手紙が配達される。スイスから手紙で、50年前になだれによる事故で亡くなった女の人の遺体が見つかったという通知だった。夫、ジェフの昔の恋人で、スイスアルプスに一緒に旅行に行った際になだれに巻き込まれ、そのままの姿で最近、氷河の中から発見された。手紙が来てから、ジェフは急にそわそわし、夜中に物置にある恋人の手紙や写真を探し出す、旅行会社に行ってスイス旅行を相談する、妻とのひさびさのセックス。こうした夫の態度に、次第に妻、ケイトは不信感を持つようになり、これまでの45年間の結婚生活にさざなみがたっていく。

 こうして書くと、私も含めた多くの熟年夫婦にありそうな話であるが、最後の場面、結婚45周年パーティーで、夫のジェフは能天気に妻の献身的な愛を褒めちぎるが、ダンスが終わると、妻、ケイトはさっと手を離す。死ぬまでジェフのことをゆるさないことを暗示したまま、映画は終わる。この手紙がなければ、幸せな結婚生活のまま終わったのに。怖い結末である。

 男女とも、昔の恋人の話をすることは、絶対にすべきでないし、ばれてはいけない。ところがこの夫、ジェフは病気になり耄碌したとはいえ、妻から「もしこの人が亡くならなかったら結婚した」という問いに、簡単に「そのつもりだった」に白状してしまう。致命的である。ここはそうは思っていても「わからない」あるいは「それは絶対にない」と答えるべきである。さらに物置の奥に、かっての恋人の写真(スライド)を隠し、それを妻に発見されてしまう。最悪である。妻からすれば、若くして亡くなった元恋人は、年老いた自分にはどうしても勝てっこない存在であり、長年にわたって築いてきた、いとおしい自分たちの結婚生活が突如がらがらと崩れていく。それからは夫の行動、自分への愛、すべてが欺瞞的なものと感じられる。

 主演のシャーロット・ランプリングは最初、誰かわからなかった。私にはビスコンティーの「地獄に落ちた勇者」、「愛の嵐」のイメージが強烈で、温和な表情の彼女の姿が一致しなかったからである。とこらが映画の後半、夫の裏切りを知ってからの彼女の表情の中に、一瞬、「地獄に落ちた勇者ども」の怖い表情を思い出した。すごい演技で、ことにダンスをして久々に夫とセックスをするシーンはリアルであった。

 こういった轍は踏まないようにしようと肝に命じることができた作品で、熟年夫婦に見てほしい作品である。くれぐれも奥さんと一緒に見て、「俺もこんな彼女が昔いた」などとは言わないように。その時は”地獄に落ちた勇者ども”となるでしょう。




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