2017年5月23日火曜日

消滅した津軽のご家中ことば



 津軽弁と一口に言っても、さまざまな津軽弁があり、また時代によって変遷する。例えば“ダラッコ”という小銭を指す津軽言葉は英語のドルから来たもので、その由来は新しい。私はよそ者なので、よくわからないが、それでも青森市と弘前市は言葉が違うし、弘前市と藤崎、板柳などの郡部でも違うし、黒石市もまた違う。さらに農家の方と一般の方とも違うし、年配の方と若い方でも違う。こうしたさまざまな津軽弁の違いがあるが、一方、今ではほぼ完全に絶滅した言葉もある。その一つは、旧士族が使っていた“ご家中ことば”と呼ばれるもので、昭和30年ころの図書ですら、すでに70歳以上の人しか使わないと書かれている。つまり明治20年ころに生まれた旧士族の家が使ったようだ。当然、その親、祖父母は江戸時代の生まれで、家の中での会話が外でも使われていたし、社会的にもおかしいと思われていなかったのだろう。

 随分前の本であるが、「わがふるさと 第五編」(1963)に“ご家中ことば”について載っているので、引用する。

1.      相手に対する言葉
 上の者に対して、“貴殿”、“御へん”、同輩に対しては“貴様”、下男、下女に対しては“嘉助”、“おさん”と呼び捨てした。また藩主に対しては、“上様”、“お上”といい、奥方を“御前様”、姫様を“おひい様”と呼んだ。
2.      丁寧語
 「ございまして」は「ごいしてごいして」、「ございますので」は「ごいしてごいすはで」。例「なんぼまだ、おじ(お宅)でよいごとなさいましてネバー.あんさまサお嫁様おもらいになられで、それー。なんとしてもねはー、もづもの持たせねば、まいねものでごいしてございすはで、なによりおめでたいお話でごいしてございしてねさ」
 「なはで」は「なさいまして」のことで、「おも帯をゆったどなはて、ごゆるりどなはて」のように使う。
3.      男性ことば
「おらどこ」は「自分の方」、「自分の家」のことで、「おらどこで飯くってえたらえでねがでえ」という。「ひんひあ」は「お前」、「君」のこと。引例は「ひんひゃ、何くってまだ腹くわしたがでえ」。「やげしめえ」(やかましいよ)、「ませえ」、「まさね」(ですね)、引例は「こじ、くって(食べて)みでくださいしなが。味コちがり(違い)まさね」。「したがでえ」(しましたがね)、引例は「わ(我)して、そうしゃべったがでえ」。「したり」(せよ、命令形)、引例は「わきばら見でねで、さっさで、行ったり!」。
 また挨拶では「ご免」といい、一般の人(士族でない)がこれを真似て男は「ご免なさい」、女は「ご免ください」、職人は「ご免けへ」、そして下の者から上の者に対する挨拶ことばは「ごぎげよう」という。

 婦人の丁寧ことばは極端で、「お」、「おん」などを乱用し、「お左様でございます」、「お帯のお柄がよろしくて」であった。

 ご家中ことばが今でもあるかと、年長者に聞いたが、ほとんどの人は知らないという。平成になると、もはや士族の使う言葉は消滅したと思われる。

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