2017年6月2日金曜日

ザ・クインテッセンスの症例報告



 矯正歯科で開業して早くも、23年目になる。当然、矯正歯科の新しい治療法、情報を得るために、アメリカ矯正歯科学会雑誌や日本矯正歯科雑誌あるいは数種類の雑誌を購入し、さらに学会などにも積極的に出席するようにしている。それでも一般歯科については、ほとんど治療していないため、どうしても知識が欠落してくる。そのため、開業当初は、「歯界展望」、ここ10年くらいは「ザ・クインテッセンス」という雑誌を購入し、できるだけ一般歯科の知識も吸収しようと考えている。

 こうした雑誌では、必ず症例報告が載っており、補綴治療、保存治療、歯周治療、矯正治療を駆使した治療ケースがある。若い頃は、こうした大掛かりな治療をすごいと思ったが、最近では、果たしてこうした治療は正解なのかと考えざるを得ないケースがある。矯正治療分野から見てみたい。

1.      下顎の叢生はなおす
 多くの症例では、下顎の切歯の叢生があれば、ブラケットをつけて治すようにしている。治療は簡単であるが、これを一生あるいは長期間維持するためには固定式の保定装置が必要となる。その場合、歯石などがつきやすく、歯周疾患の観点からは必ずしもメリットはない。きれいな歯並びの方が、歯磨きがしやすく、歯周病になりにくいと患者に説明していると思うが、そうした結果を証明する論文はない、叢生と歯周疾患の程度にはやや相関があるが、あまり関係ないという論文が多い。すなわち、中高齢者で下顎切歯の叢生を矯正治療でなおす根拠は確立していない。ただで治療するなら、まあいいだろうが、おそらく数十万円以上の費用がかかっている。こうした点を術者に問うと、必ず患者が叢生の改善を希望したと言うだろう。これは術者の言い方ひとつでかわるもので、術者は「下の前歯がでこぼこしているが、とくに歯周病の進行とは関係ない」というか、「下の前歯のでこぼこを矯正治療でなおして、きれいにした方が歯磨きがしやすく、歯周疾患になりにくい」というかで、患者の答えは違う。

2.      かみ合わせを治すといいながら治っていない。
 上顎前突のケースなどで、補綴治療、歯周疾患などの治療とともに、矯正治療をしたケースがある。補綴治療で歯を小さくして中に入れて、少しは上顎前突が改善しているが、臼歯関係がII級のまま、あるいは依然としてオーバジェットが大きいケースがある。上顎の小臼歯を抜歯して、本格的な矯正治療をすべきだが、患者がそうした治療を希望していないという。それならこれはベストの治療法ではなく、ベターあるいは二番目の治療法となる。それは自慢げに雑誌に掲載するようなケースではない。少なくとも治療をする前に矯正歯科医に紹介すべきである。

3.      手術をしない治療
 反対咬合の治療例に多いのだが、明らかに骨格性の反対咬合症例を補綴あるいは矯正治療を併用して治療をしている。反対咬合の患者さんの多くは、かみ合わせの改善より顔貌の改善を欲している。果たして治療計画を立てる時に、手術を含めた矯正治療のプランを勧めているだろうか。私の経験からすれば、ボーダラインケースも含めて70%以上は手術を希望する。多くの症例では、セファロをおろか、顔貌の治療前後の写真もない。歯の全体的な治療を発表するなら、模型、パントモ写真だけでなく、セファロ(側方、正貌)、口腔内写真、顔貌写真は少なくとも必要であろう。審美歯科を提唱するなら、こうした資料を出してディスカッションすべきであろう。


 こうした一般歯科雑誌の症例報告では、いくらくらいかかったかも記載すべきであろう。数百万円かけてこれくらいという症例もあろうし、何十万円、あるいは保険のみでこれだけの治療をしたかという症例もあろう。通常、家や車でも金をかければ、凄い家が建ったり、スーパーカーが買える。ところが歯科では、いくら金をかけても雨漏りのする家や故障ばかりする車を掴まされる可能性はあるので注意が必要である。

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