2018年3月1日木曜日

矯正治療の費用





 矯正歯科治療費は高額なので、保険適用ができないのか、もっと安くできないかという声は多い。そうすればもっと多くの人が治療を受けられる。アメリカでは歯並びにより家庭環境が推察され、歯並びの悪い人はあまり家庭がよくないと思われ、就職や仕事にも影響する。そのため、子供のいる家庭では我が子の矯正治療の可能性が高いため、歯科医療保険に加入する場合が多い。全額保険から出る訳ではないが、半分くらいは保険でカバーされているので、ある程度の年齢になると矯正治療を受ける。感覚的にアメリカの不正咬合を持つ児童の半分以上は矯正治療を受ける。ヨーロッパでも同様であり、英国、ドイツ、フランスや北欧では国の保険制度で矯正治療がカバーでされるため、同じく受診率は高い。

 日本でも最近は矯正治療を受ける子供達は多くなってきたが、それでも軽い不正咬合も含めれば、東京で30-40%くらい、青森のような地方では20%以下であろう。うちの患者でも、顎変形症や唇顎口蓋裂患者のような保険適用される場合は、80-90%の高率で治療することを考えると、やはり料金の高さが受診抑制に繋がっている。

 全顎の本格的な矯正治療、いわゆるマルチブラケット装置による治療費を考えると、一番安いところで総額30万円くらいだが、さすがに日本矯正歯科学会の専門医の資格を持つ先生の矯正歯科医院で、この値段はない。舌側矯正を除く一般的な唇側矯正では、専門医で安いところで50万円くらい、平均で80万円くらい、最高で120万円くらいであろう。以前、日本臨床矯正歯科医会のアンケートでもこれくらいであった記憶がある。200万円を越えるところは一軒もなかった。東京には200万円、300万円というところもあるようで、ネットで調べたが、全く学会でも知られていない歯科医院である。私の尊敬する多くの矯正歯科専門医でこうしたばかげた料金設定をしているところはない。高額な歯科医院の勤務医を調べても矯正認定医でなかったり、取ったばかりの若い先生だったり、よくもベテランの凄腕の先生がこの数分の一で仕事しているのに、恥ずかしくないのかと思う。まあよほど怖いものしらずでなければこうした料金設定はつけられない。

 各医院の矯正料金はどうして決まるかというと、ほとんど全く根拠はなく、地域の相場で料金が設定される。実際、料金の中の材料費が占める割合は小さく、おそらく数パーセントであり、人件費、テナント料、開業費、その他経費と儲けとなる。材料費はほぼ全国一律であるが、人件費やテナント料などは東京など都会が高く、地方は安いため料金に差がある。ただ矯正料金は、材料費を除くと、先生の技術料と保証料が占める割合が大きい。矯正治療をある程度マスターするためには、少なくとも7,8年以上、基本的には大学病院矯正歯科で学ぶ必要があり、さらにその臨床能力は認定医試験あるいは専門医試験でチェックされる。一般開業医の中には、大学でトレーニングを受けていないが、実力はそこらの矯正専門医より上だと豪語する先生もいるが、まず絶対に専門医試験には合格できない。少なくとも千症例以上の治験例が必要であり、こうした経験値も含めた技術料なのである。また保証料というのは、治療後の後戻りに対応することである。ある著名な矯正医が“後戻りのことを心配しなくて済むなら料金は半分でもよい”と言っていた。矯正の場合、必ず後戻りがあり、症例により、あるいは患者の要望により再治療になることがままある。再治療の費用(調整料を除く)は一切とらないのが、矯正専門医の基本的な考えであり、こうした費用も最初の料金に含む。さらに私のところではやっていないが、インビザラインなど新しい治療法でうまく仕上がらない場合は、通常のマルチブラケット装置による治療を行うが、そうした費用も含む。要するに治療費は装置そのものの費用ではなく、結果に対するものであり、さらにその後のメンテナンスや再治療もその費用に含める。

 日本では数回の矯正歯科の講習会を受けただけで、患者に矯正治療を勧める歯科医院は多いし、そこで患者から200万円の矯正治療費をとるのは勝手である。治療を受ける患者の中には高いところの方がよい治療を受けられると勘違いしている人がいる。実際は優れた先生の多くは適切な費用で治療している。矯正治療は高額な費用と期間を要する治療なので、もっと情報を得てから、あるいは複数の歯科医院を訪ねてから決めるべきであろう。さらに言うなら、費用がかなり安いのであれば、一般歯科で矯正治療をするのも悪い選択とは言えないが、費用が同じ、あるいは高額なのに矯正歯科医院に行かないで、一般歯科(審美歯科)で治療するのはどうかしている。どこで治療するかは、ネットによる口コミは全く当てにならず、実際に治療している方からよく聞いて、なおかつ何軒も廻って決めるべきであろう。

 こんな話を書いているところに千葉の歯科医院で小学六年生の子供の矯正治療費に140万円、前払いしていたのが、歯科医院が閉院したので返ってこないとのニュースがあった。申し訳ないが、小学校六年生の矯正治療、早期治療、一期治療にこれだけ高額な治療費を、それも前納に徴収する医院というのは、そもそも問題があり、どうして千葉には他に優秀な矯正専門歯科医院があるのにわざわざここを選んだのか、患者側にも問題がある。こうした患者はデンターネットなどの口コミランキングなどを信用しているようだが、全くインチキで、今回報道された3つの歯科医院も、千葉県東金市の一位、船橋市のダントツの一位、千葉市稲毛区の三位と、いずれも口コミランキングは高い。


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