2019年5月16日木曜日

矯正治療の保険化2



 前回、矯正治療の保険化について、世代による健康保険料の不公平から論じた。つまり若い世代では、健康保険料を負担している割には、老人世代に多く医療費が使われ、自分たちの世代ではあまり使われていない。さらにう蝕が若い世代では少なく、歯科医療の負担金も不公平である。そうしたことから子供を持つ若い世代で、矯正治療が保険適用となることは、家計的には助かることだし、健康保険料を払って良かったと思える。

 現在、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンなどのヨーロッパ諸国では子供の矯正治療は保険が適用されている。またアメリカでも民間の保険会社では矯正治療もある程度カバーされているため、半分から2/3くらいの費用となる。こうした保険化の理屈としては、う蝕や歯周疾患は本人の努力によりある程度、予防できるのに対して、不正咬合は予防できず、正常咬合の人に比べて咀嚼、発音、あるいは社会心理的な不利益があるとされているからである。こうした理屈は、何も欧米人のみに当てはまるものではなく、日本人でもそうである。

 今後の日本の歯科医療について、最近の厚労省の予想と対策について、医科もそうだが、主として高齢者に偏っている。若い世代へ歯科医療の対策は、ほとんどなく、昨年、小児の口腔習癖などの口腔機能についての指導が保険化された。ただ、これについては、単純な指導にとどまり、それによる咬合の変化は少なく、むしろその後の自費、矯正治療への誘導に使われている。これではむしろ反発につながるであろう。さらに口腔機能の異常を判定するのは難しく、むしろ子供を持つ親にすれば、口腔機能の改善も大事ではあるが、形態の改善、すなわち不正咬合の治療を望んである。

将来的にはどのような不正咬合が保険化すべきであろうか
1.     反対咬合
 反対咬合については、早期治療に関してはいまだに異論はあるものの、多くの矯正歯科医で少なくとも前歯部での被蓋を早めに改善する点についてはコンセンサスが得られているし、前歯が逆では、食物を前歯で咬むことはできない。その後の上顎骨前方牽引装置や急速拡大には異論もあろうが、真っ先に保険適用にして欲しい不正咬合である。発生頻度は5%程度であり、重度化した手術を要する反対咬合はすでに保険適用となっていることから、この範囲を子供までに広げて欲しい。
2.     開咬
 前歯、奥歯が噛まないで開いている開咬は、反対咬合よりさらに頻度は少ないこと、さらに保険適用となった口腔機能と密接に関わることから、矯正治療と口腔機能指導の両方が保険適用して欲しい不正咬合である。

3.     上顎前突
 上あごに比べて下あごが小さくて出っ歯になっている骨格性上顎前突では、私のところでは機能的矯正装置による下あごの成長促進を行なっているが、これに関してはかなり異論が多く、早期治療は必要ないという声も多い。それでも上下の前歯のズレが8mmを超えるような症例では、前歯では物を食べにくく、症例としては保険適用に含めてもよかろう。

4.     叢生
 歯のでこぼこ、叢生の患者さんは最も多く、上記の1.2.3(オーバジェット8mm以上)を合わせたより、大きな頻度となる。おそらく矯正治療を保険適用にした場合、その医療費において最も問題となる不正咬合となる。軽度の叢生も含めて保険適用とすると、全児童の70%程度くらいが適用となり、莫大な医療費がかかる。また小児の叢生に対する床矯正装置(拡大床)や上顎骨急速拡大装置などは、日本矯正歯科学会でもあまり肯定されておらず、これは世界的にも同様である。現在、日本全国で最も問題になっているのは6、7歳頃から床矯正をすれば、将来的にマルチブラケットをつけなくても綺麗な歯並びになると言われて治療するケースである。全て失敗すれわけでないが、重度の叢生に対してはこうした治療法は厳しく、むしろ軽度のものに対して有効なのだろう。中から重度の叢生については、基本的には永久歯完成する中学生頃まで経過観察し、その時点で、口唇突出感などを判断して非抜歯、抜歯を決定してマルチブラケット装置による治療をするのが一般的である。また中学生以降に治療をしても手遅れになることはなく、十分な治療が期待できる。それゆえ、保険適用できるのは中学生以降の叢生とし、軽度のものは適用にしないことが医療費の高騰を防ぐ。


 上記、1.2.3および4(中等度から重度の叢生)は、素人が見ても十分に判断できるため、正面および側方からの写真を添付して保険者あるいは支払基金の許可を求める方法もある。また医療機関が従来の口蓋裂の矯正治療を行う施設だけに限定されるなら、個別指導などで、違反があれば、保険医を停止にすれば、軽度の不正咬合に対しる拡大適用は抑えられるかもしれない。

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