2019年5月29日水曜日

矯正治療をする人が増えています。

アメリカの矯正患者数



 先日、東北矯正歯科学会のために福島の郡山に行ってきた。そこで矯正器材業者の方に“最近、矯正治療はブームになっていない”と聞くと、ここ二、三年、東京を中心に、矯正機材の出荷量もかなり増えているとのことであった。その前の10年くらいはあまり増減もなかったことから、一種のブームと呼んで良い。

 どうして矯正患者は増えてきているのだろうか、いろんな要因があるが、まず、人口、特に若年人口の減少で、子供一人当たりにかかる費用が増えたことが挙げられる。昔のように数人も子供がいれば、なかなかみんなに矯正治療をすることは金銭的にも厳しかったが、最近は1か2名の子供が一般的であり、さらに虫歯がほとんどない。結果的に口腔内で最も気になるのは不正咬合となる。さらに芸能界に出てくるタレントはみんな歯並びが綺麗で、昔のように八重歯が可愛いといったことは少なくなった。それだけ矯正治療がポピュラーになってきたのだろう。

 矯正先進国のアメリカで1年間に受ける矯正患者数は約500万人、一方、日本は年間30万人くらいと言わられている。アメリカの人口はいつも間にか増えて、今は約3億人となっており、日本の約3倍で、人口比でいえは日本の矯正人口はアメリカの1/5くらいと言えよう。つまりアメリカ並みになれば、今の5倍くらいは矯正患者が増える。つまり年間150万人くらいになる可能性がある。アメリカでは矯正専門医は約1万人で、一人当たりの患者数は単純計算すると約300人となる。この数は非常に大きい。もちろん、一般歯科医で矯正治療も多くいるために、この数はそのままではないが、海外の矯正歯科医に聞くと、この数値は満更でもなく、毎日かなり大変なようである。一方、日本では矯正専門で開業している歯科医は約2000名くらいであろう。単純に割ると一人当たりの患者数は150名くらいで、アメリカのほぼ半分くらいとなる。もちろんアメリカに比べて日本では、歯科の専門医制度は未発達なため矯正専門医以外の一般歯科で矯正治療をする割合も多く、個人的には半分くらいの患者は一般歯科医で矯正治療を受けていると思われる。

 最初に述べたように、今は矯正治療がブームとなっており、必要なことには金をかける若者文化からすれば、一過性のブームではなく、今後も矯正治療をする比率は増加するであろう。2、30年後には、若者人口の減少にも関わらず、アメリカ並みの150万人の矯正人口になる可能性は高い。その場合、矯正歯科医の数も現行の少なくとも3倍は必要で、日本でも矯正専門医が4000人くらいは必要であろう。現在、日本矯正歯科学会の専門医は300名程度、認定医は2700人くらいでまだまだ数が少ない。将来的には標榜可能な専門医制度を日本矯正歯科学会は目指しているが、患者が全国、どこでも矯正歯科を専門医から受けるためには、少なくとも4000人の専門医は必要であり、今の認定医をそのまま専門医にしてもまだ足らず、より高度な専門医をこの10年、20年で育てるためには、やめる先生を含めると毎年200名程度は増やしていかなくてはいけない。これを27歯科大学で育成するのは、一大学で毎年、9名以上の医局員が必要であるが、全く不十分である。現在、認定医を取るのは研修医期間も含めると7、8年はかかり、一大学で毎年9名ずつの認定医を取得させ、さらに専門医にするのは極めて難しい。というには、一学年に9名も認定医取得を目指す先生がいると、総医局員数は70名以上の大世帯となり、それに十分な患者数を配当することも難しい。いずれ破綻するシステムであり、アメリカのように3年の大学院のコースを出れば、その証拠として認定医を取得させ、その後、開業専門医あるいは専門開業して専門医を目指すシステムを取らない限り、日本で必要な矯正専門医数、4000名の確保は非常に難しい。取得までに7,8年もかかるような認定医の上にさらに期間がかかる専門医を作ることは、質の保証にはなっても数の確保は難しく、個人的には大学では3年で認定医を取れるような教育システムを確立すべきだと考える。そのためには、このブログで何度も言うように、国立大学歯学部の基礎研究の研究者を育てる大学院大学は廃止すべきで、欧米に沿って矯正専門医を育成する専門職大学院にすべきである。こういったら怒られるが、将来研究者にもならない、あるいはなるつもりもない学生を大学院に入れるのは、全く研究費の無駄遣いであり、学生にとっても時間の無駄である。大学院の4年間で矯正臨床と基礎研究を併行して行うことは難しく、むしろ3年の矯正歯科の専門職大学で徹底的に矯正治療の知識と技術を学ぶ方がよほど、役に立つ。
 若者の科学離れが危惧され、国立大学の医学部、歯学部でも大学院大学が施行されたが、国民にとって医者、歯医者の科学者を期待している訳ではなく、優れた臨床医を期待しており、そのためには法科院大学などの専門職大学院への移行が何より必要である。医師においても、博士号より専門医の資格を求める流れとなっている。

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