美容学校で、カットやパーマ〜などの実習がほとんどなく、国家試験も筆記試験だけだと、どうだろうか。役立たずの美容師ができるだけで全く意味のない学校であろう。もちろん卒業してすぐにお客さんのカットができるわけではなく、勤務する美容院で、鍛えられて初めて一人前の美容師となる、それでも知識だけでなく、実習を通して基礎的な美容を知ることは、大事なことであり、当然、その習得レベルを試験で問うために国家試験でも規定の実技試験がある。
歯科は医科の中でも内科ではなく、手を動かす外科に近く、いくら知識があっても手が動かなければ、優秀な歯科医とならない。そのため、昔、受けた松本歯科大学や東京歯科大学では大学の入試としては珍しく、音大や美大のような実技試験があった。松本歯科大学では彫刻刀で石膏棒から規定の形を掘り出す試験があった。これは手先の器用さを見る試験で、細かな作業をする歯科医師は、手先が器用なことは大変重要なことであり、あまりに不器用な人は大学に入っても、あるいは開業しても苦労するので、入学試験でそれを調べるのは理にかなっている。
同級生の中にも手先があまり器用でないので、臨床歯科医をやめて、基礎の研究家になったものもいるし、県庁に勤務した人もいる。あまり学力がなくても、手先が器用で、細かい仕事ができる方が歯科医には向いているのかもしれない。私自身、それほど器用ではないが、それでもプラモデルを作ったり、絵を描くのは好きな方で、そうしたことは多少とも今の仕事につながっている。それでも本当に手先が器用で、綺麗な仕事をする先生を見ると、歯科医に向いているなあと思う先生がいるのは事実である。
こうした歯科医は、手を動かしてなんぼという感覚は世界的な常識であり、どこの国でも座学だけでなく、実技を重んじている。とりわけ、アメリカの歯科大学では、実技の時間が多く、最終学年になると朝から晩まで患者の治療をしていて忙しい。卒業するにも症例数が必要だし、実技の試験もある。さらに州で開業するためには試験があるが、これは試験官が受験者の患者への治療を実際に見て採点して、合否を決める。これは昭和30年頃まで日本でも歯科医師国家試験で行われた方法で、実際の患者の治療を行い、それを採点した。その後、試験のための患者を集めるのが難しく、義歯の製作、抜去歯を用いた補綴、保存処置の実技などの実習試験になった。これも抜去歯がなかなか集まらない理由で、私が卒業した翌年くらいに中止となり、その後、ペーパー試験だけになった。すでに歯科医師国家試験から実習試験がなくなって40年以上たち、何度も実習試験の復活が議論されたが、その度に大学サイドの反対の声が強く、結局はペーパー試験で臨床能力を見るというややこしい方法で、こうした問題を回避した。そのため逆にペーパー試験の難度が上がり、準備のために歯科大学の最終学年が予備校化している。これは全く本末転倒である。
開業歯科医師からすれば、こうした歯科大学の実習軽視のあり方、実技のない国家試験について、本来なら反対すべきであるが、内心、臨床のできない歯科医が生まれるのは自分たちのライバルが減るという理由で歓迎する側面もあった。歯科大学側が、世界でも珍しい臨床を軽視したこうした歯科教育、国家試験に反対しないのはわかるが、日本歯科医師会から、未だ、この現状、すなわち世界の歯科教育、国家試験、そして卒業した時点の学生の臨床能力などを調べた調査がないにはどういうことだろう。調査費は十分にあるはずなのに、歯科医師会にはこうした危機感はないようだ。そもそも東京高等歯科医学校(現:東京医科歯科大学)の創立者、島峰徹先生がわざわざ官立の歯科大学を作ったのは、歯科医は医者と違い、手を動かす教育がいるためであった。
現行の歯科教育システムでは、歯科国家試験に合格し、その後、初めて研修医として十分な臨床経験を積むようになっている。ところがこの研修医制度というのも、ほとんど中身がないもので、最終的には研修機関で個々のドクターが評価されるが、ほとんど落ちることはない。研修医の1年間、患者には触らず、実際の治療をせず、見学だけでも、この研修は修了できる。私のクリニックも研修機関になって20年くらいになるが、はっきり言ってこの研修医制度は、なかった頃に比べてメリットが少ない。端的に言えば、私らの時代の6年間の臨床経験>今の6年間の学部教育+研修医の臨床経験ということになり、より良い医療システムという点ではあまり意味は持たない。こうした歯科研修医に近い制度は、イギリスのVocational Trainingというシステムで、卒業後1年間、公立の地方のセンターで働き、一般歯科の臨床技術向上を図る。ただこの場合も大学の間に100名以上の患者を見た上での研修という点で日本と違う。学生用の患者は集めにくいというのは日本だけの問題ではないが、世界中のどの歯科大学も学生の臨床実習を重要視し、その教育方針を未だに続けている。日本が世界最先端の歯科医療を目指すなら、こうした日本の歯科教育の異様さを気づいてほしいものである。そして歯科大学での学生による患者治療を重視し、規定の症例数に達しない場合は、大学においては文科省による指導あるいは補助金の削減を、学生に対しては留年させるべきで、一方、国家試験の筆記科目は三年生頃の基礎科目の試験と最終学年の臨床科目の試験の2回として、もっと簡単なものにすべきであろう。そして合格率も医師国家試験並みの90%くらいにしてほしい。
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