左側方口腔内写真(欠け)-1点、トレース図-2点、側方 X線規格写真(上向き)-1点 |
矯正歯科医は、他の歯科医や医師と比べても特殊な点がある。それは治療結果を点数であらわすことができるのである。例えば、外科の先生が手術の良し悪しを点数にするのに、手術時間、出血量などは測れようが、手際の良さ、患者の満足度などを点数化するのはかなり難しい。同様に歯科でも、治療の良し悪しを具体的な数値で表すのは難しい。歯科では広告可能な専門医は口腔外科、小児歯科、歯周病、歯科麻酔、歯科放射線などがあり、その専門医試験では症例審査も行なっているが、それほど厳密に点数付けをしているわけではない。
一方、矯正歯科専門医試験では、症例の指定、Skeletal Class I、抜歯症例などがまずあり、初診時、治療終了時、終了二年後のそれぞれのセファロ、パントモなどのレントゲン写真、口腔内写真、顔面写真、平行模型が必要となる。そしてこれらの資料の鮮明度やポジションニング(平行に写真が撮れているか)などにより、3.きれい、2.普通、3,よくないなどの点数が付けられる。レントゲンの現像が悪かったりすると、点数が低い。資料の評価がまず行われる。もちろんこうした資料がなければ、試験自体に参加できない。そのため矯正専門医では、綺麗な資料取りが必要となる。特に口腔内写真はかなり難しく、以前のフィルム写真では失敗が許されないので緊張した。大学の矯正科に入ると新人はまず、この資料取りを徹底的に教えられるが、一般歯科の先生はここで差がつく。何しろセファロと呼ばれる横からのレントゲン写真では眼と耳を結ぶ線に平行ということが基本で、頭の位置づけが悪いと、このレントゲンだけで減点される。模型も同様に平行模型を作るのが前提なので、齦頬移行部まで綺麗に印象採得ができないといけない。症例の資料をここまで点数するのは他科の専門医試験では知らない。
次に必要なのは、症例の分析である。そのためには正確なセファロのトレースが必要で、これがまた難しい。頭蓋顔面を横から撮ったレントゲン写真の架空の点、線が基準点、基準線となるが、これを同定するのは修練がいる。何しろ架空の点、線であるので、正確な計測はそもそも無理であるが、それでもある程度の範囲に収まるので、それを超えた異常な数値は、間違いだと判定される。ここでは途切れない綺麗な線が求められ芸術的なセンスが必要となる。絵を描くのが下手で、ギザギザな線しか描けないようでは、点数が低くなる。パントモ写真でも歯根の吸収や歯の平行性に問題があれば減点される。
次に模型による評価が行われるが、これもまた厳しい。上下の歯がしっかり噛んでいるか、ノギスのような棒を使って測り、その隙間によって点数をつける。もちろん太い棒が入るほど上下の歯の隙間があれば、点数は低い。また辺縁隆線やコンタクトポイントが一致しないと減点されるし、隙間も原点となる。こうした数十項目にわたる評価を点数で表し、総合点をつけ、基準点に達しないと不合格となる。
こうした細かい点数付け、評価がいいのか別にしても、矯正歯科の特殊性を表す。ある意味、一般の歯科医の先生から見れば、非常におかしなものであり、また一般歯科の先生が仮にこうした専門医試験を受けてもまず100%は通らない。矯正歯科の専門医が、一般歯科の矯正治療を批判する基盤は症例の判定基準である。こうした特殊な判定基準から治療結果の良し悪しをみる。つまり口腔内写真やレントゲンがダメであれば、症例結果そのものがダメと判定する。確かに汚い検査資料でいい結果はあり得ないが、それでもこれだけでダメとは言えないであろう。昔、大学にいた時に、矯正治療を受けていた学生がいた。かなり細かな性格で、もう少しこの歯の捻転を取ってくれ、トルクを入れてくれと注文がうるさい。何名が担当医を変えたが、みんなついていけなかった。六年生になるとこの学生が矯正科への入局を希望してきた。ところが医局員の多くは、あんな細かい奴は入れさせないと言って反対して、結局、よその大学の矯正科に入局した、今では日本のみならず、ヨーロッパや舌側矯正の専門医資格を持つ優秀な矯正医になった。矯正科は私のような大まかな人間よりは、こうした細かい先生の方が向いているのではないかと思う。
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