2020年6月15日月曜日

矯正治療ではマルチブラケット装置がメインである


 最近、他の歯科医院で矯正治療をしているが、どうも治療がうまくいっていないので、見て欲しいという電話がくる。基本的には、現在、治療を受けている先生とよく相談してもらうように言っているが、中にどうしてもはセカンドオピニオンを求めてくる患者がいる。セカンドオピニオンとは今、受けているあるいはこれから受ける治療法について担当医以外の先生に意見を聞くことで、その際に担当医からこれまでの経過や必要資料をもらって来院する。セカンドオピニオンをする先生はこれらの資料をもとに自分に意見を述べ、担当医に返書を書く。同じ疾患によっても治療法が色々あり、どの治療を選択するかは最終的には患者が決める。ただ同じ専門医であれば、こうした治療法に違いについてはある程度、知識があるので、よほど患者の不利益がなければ、患者の選択を尊重するし、医師自身も納得できよう。例えば、乳がんの治療法についても、ガイドラインに沿ったある程度の選択の幅があるし、病院によっても治療法の違いがある。ただこうしたガイドラインに全く反する民間療法を選択することは勧めないし、強く非難することもあろう。最近では小林麻央さんの乳がん治療がこれに当てはまり、当初は手術と放射線治療による標準治療を受けることになっていたが、臍帯血による代替治療を受けたため、手遅れになった。

 矯正歯科においても、特に日本矯正歯科学会の専門医のレベルであれば、それほど治療法に大きな違いはないし、仮にうまく治らない場合でも、その原因が納得できる。例えば、前歯が開いている開口の矯正治療後の後戻りなどは、多くの矯正医が経験するもので、舌の機能が関係していて、治療後の安定が難しい。自分が治療すれば、絶対に後戻りがないと言い切る矯正医はいないはずだ。そうした意味では、私のところでもうまく治療できたと思う症例は20%くらいで、逆にうまく治せなかったと思う症例が20%、残りの60%はまあまあと思うレベルで、決して治療に自信があるわけではない。同じような診断、治療法をしても結果が全く異なることを経験する。生体の反応は、個性があり、矯正治療でも長年の経験である程度の反応は予測できるが、全く予想外の反応に苦しむこともある。ましては十年、二十年後の状態まで、考えると、正直言って治療するのは苦痛である。

 矯正歯科医は、症例発表などにより自分の臨床能力が問われる機会が多い。特に日本矯正歯科学会の専門医の審査をすると多くの他の矯正歯科医の症例を見ることができるので、大まかな自分の臨床能力のレベルがわかる。一般歯科の先生で、かなり矯正治療をしている先生でも、専門医のレベルに達することはない。これは手先の器用さなどの才能や知識の問題ではなく、経験の差であり、多くの専門医は、少なくとも1000例以上の治療終了治験、20年以上の治療経験がある。さらにこうした症例の中から学会に症例報告をする。年間、50-100名以上の新患と同数のマルチブラケット治療患者がないとダメで、この患者をさばくには、一般歯科では無理である。症例数だけなら、一般歯科でも床矯正装置をすごくしているところがあるが、最終的な仕上げまで評価できない。

 このブログで何度も強調しているが、世界中の矯正専門医のメインの治療法はマルチブラケット装置であり、これ以外の種々の治療法はあるものの、これらはあくまで副次的な治療法である。そうした意味では、マルチブラケット治療をしない歯科医院は、あくまである程度のレベルまでしか矯正治療できないとことを意味し、もし矯正治療を受けるなら、そうしたことも十分に理解しておかないと、歯科医師、患者双方ともトラブルとなる。

 昔、小児歯科にいた頃、咬合誘導という概念で少し矯正治療をしていた。その後、やはりマルチブラケット装置による治療が重要と思い、矯正歯科に転科した。当初はでこぼこ、小臼歯抜歯症例などは“バカチョン”症例とバカにしていたが、経験を積むと簡単な症例などなく、マルチブラケット装置による治療は本当に難しい。昔は矯正治療=マルチブラケット装置という感じで、一般歯科医も大学の研究生になったり、2、3年の長期も講習会に参加した。結局は難しくて諦める人も多くいたが、最近ではこうしたマルチブラケット装置に講習会すら受けず、マウスピース矯正の講習を受ける先生がいる。面倒な治療はしたくないが、金は儲けたいのだろう。羞恥心がないのだろう。

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