2020年10月21日水曜日

一般歯科医からの転医の問題点

 


 今日も、他県で治療を受け、その継続治療を求められた患者が来院した。継続治療自体は全く問題なく、こちらも毎年多くの患者の治療継続を求めるため、おあいこの義務だと思って快く治療を継続することにしている。

 

 ただ一般歯科医よりの転医、つまり転住による治療の継続には問題がある場合が多く、素直に治療継続することに躊躇う。問題点について列挙する。

 

1.     治療費の返却がない。

 矯正治療を請負制であり、治療が最後まで終了していない場合、その進行度合いにより返金しなくてはいかない。例えば、全行程の半分くらいで転医した場合は、総額60万円であれば、その半分30万円を返却しなくてはいけない。もちろん次の矯正歯科医で、30万円で治療できるかは不明であるが、一般的には少なめに判断し、半分くらい治療が進んでいても2/3の料金を返金することが多い。ところが一般歯科医はこうした矯正歯科のルールを知らないで、全く返金しない場合が多い。この理由として、患者の勝手で治療が中断されるので返金義務がないと考えているのだろう。医療は準委任契約であるので、治療の経過に沿って返金するのが法的にも正しい。転医の可能性がある場合は、治療開始前に返金についても先生に尋ねるべきである。

 

2.     転医の仕方を知らない

 通常、患者が転住し、遠方のために通えなくなった場合、担当医は転住先の矯正歯科医を探し、そこに連絡して、治療継続の可否を尋ねなくてはいけない。ただ多くの一般歯科医は、転住先の歯科医を知らないので患者に探すように指示する。これはひどい話で、知らなくてもインターネットで探せばいくらでも転住先の矯正歯科医院を見つかるはずで、この先生であれば治療を継続できると思う先生を見つけ、連絡すべきである。これを面倒くさがる。もちろん全く知らない先生に電話をして治療継続を頼むのは勇気がいるかもしれないが、それを患者に任せ、先生を探せというのは、丸投げであり、責任回避である。ほとんどの一般歯科医はこれができない。

 また転医する場合、これも書式が決まっており、初回検査時の資料(模型、レントゲン、口腔内写真、顔面写真、治療の経過、装着している矯正器具の種類、これまでかかった治療費、今後の治療の予定など)を持参されなくてはいけないが、この資料がひどく、こうしたルールも知らない。

 

3.     治療内容がひどい

 今日、来た患者も、もともと歯のでこぼこの患者であり、治療自体はそれほどひどい訳ではない。ただ初回検査時の模型を見ると、明らかに抜歯症例で、非抜歯でする場合がかなりの口唇の突出感が出ることが予想され、実際にそうなっている。ところが前医では非抜歯と抜歯との治療結果の違いについての話はなく、非抜歯の説明を受けただけである。こうした先生に口元が出ているので直して欲しいと聞いても、おそらく気にするな、あるいは私は健康な歯は絶対に抜きたくないと主張するだろう。非抜歯治療自体、批判している訳ではなく、最初に非抜歯と抜歯治療の両者の予測結果を十分に説明したか、あるいは治療途中で患者が口元を出ているのが気になる場合、治療計画を変更するかという点が問題となる。

 

4.     来院した患者をすぐに治療する

 例えば、高校2年生で不正咬合のために、来院しても、今からだと1年半くらいしか期間がなく、通常の矯正治療では2年間かかるため、卒業までに終了する可能性は低い。それ故、私のところでは、こうした患者はとらず、大学に入学してから治療するように勧める。ところが一般歯科医の中には、こうした症例に対して、治療をして、何とか卒業までに終わったと自慢する先生がいる。この先生になぜ矯正治療を急ぐのか、大学入学してから治療しないのかと問うてもキョトンとしている。来た患者は取り敢えず、治療をすぐに開始するのが一般歯科医のやり方である。これで治療結果が良ければ問題ないのだが1年半ではうまく治療できないし、治療が途中だからといって、そもそも治療継続を依頼する気もない。

 

 一般歯科医での矯正治療、特に転医に関する問題点を少し厳しく指摘したが、矯正専門医でもいい加減なところがあり、今回のケースもいわゆるフリーの矯正医が担当していた。患者紹介は、そのパートの矯正歯科医の責任で、今回のケースは日本矯正歯科学会の倫理規定にも反するので、その矯正医の認定医資格停止を提訴しようと考えたがやめた。月に1回、その診療所にバイトに行っている先生で、そこまで考えていないことだろう。ただ日本臨床矯正歯科医会に所属する矯正専門開業の先生方からの紹介では、これまで25年間、一度も不快の思いをしたことがなく、逆に一般歯科医での転医でまともな紹介を受けたことがない。一般歯科医での矯正について、今回のように厳しいコメントをすると、必ず反発を招くが、最終的には矯正専門開業医でないから“と逃げられることが多い。これは卑怯なやり方で、これを言ってはおしまいである。患者からすれば、なぜ最初から矯正専門医に紹介しないかということになる。こういうエクスキューズを言うくらいなら、せめて料金をうちの料金の半分から1/3くらいにすべきであろう。中には”矯正専門医でないから“と言いながら、うちより料金が高いところもあり、指摘すると”先生のところが安い“と言う。わけがわからない。一般歯科というのは、親父は50年間以上もしていたし、兄もすでに30年間以上している。子供の頃からその大変さは十分に目にしてきた。一般歯科の勉強だけでも忙しく、とても矯正歯科まで勉強できないので、多くの先生は、矯正治療はしないか、あるいは簡単な症例しか手をつけない。ほんの一部の先生が、知識、経験もなく高い費用で矯正治療をし、問題が出ると専門医でないと開き直る。こうした先生のことをここでは非難しているを理解して欲しい。


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