2021年1月8日金曜日

世界中の矯正歯科医は100%、マルチブラケット装置を使う



 現在、中学生以下の患者は最後まで責任を持って見られないので、子供の矯正治療をしていないが、それでも意見だけでも聞きたいという患者が多い。多くは治療中の患者、それも上下の歯列の拡大治療をしている患者か、そうした治療を勧められた患者で、今の治療法で良いのかという相談である。

 

 顎の大きさに比べて歯が大きく、でこぼこしている不正咬合は叢生(そうせい)と呼ぶが、日本人の不正咬合の中でも一番多く、軽いものも含めれば、50%以上の頻度となる。これには噛み合わせが逆の反対咬合や逆に出っ歯になっている上顎前突の症例も含む。すなわち、出っ歯ででこぼこがある症例や、さらに上下の前歯が前に飛び出している上下顎前突も含む。

 

 こうした叢生の症例の場合、治療法としては上下の歯列を横に前に広げる拡大治療と歯を何本か、多くは小臼歯を抜く抜歯治療に分かれる。成人で言えば、こうした叢生の場合、私の診療所のケースで言えば、ほぼ70%は抜歯症例となる。わずかなでこぼこの症例や噛み合わせが逆の場合は非抜歯で治療する場合もあるが、大抵はでこぼこを取るだけなく、口元を引っ込めたいという要求も多い。知人の台湾の矯正医によれば、台湾で矯正する患者の多くは口元を引っ込めたいという患者が多く、ほとんど抜歯症例になると言っていた。最近では、私の所でも軽度の叢生では、歯の両端を少し削る(0.1-0.2mm)、デスキングという方法と矯正用アンカースクリューを使い、それほど歯を前に出さないででこぼこを取ることもできるようになったが、今の口元より5mm以上入れるとなると抜歯することが多く、必然的に抜歯する率が高くなる。

 

 一般歯科、特に床矯正治療、拡大治療を行う所では、非抜歯による治療を勧める。もちろん非抜歯、拡大治療で治るのであれば、それは好ましいことであるが、実際は半分以上失敗することになる。すなわち、口元が出ている患者にさらに歯を前に出すとゴリラのような顔貌になるため、患者は満足しないし、上顎前突の患者ではでこぼこがなくなっても出っ歯が残っているようなら満足しないであろう。矯正医の考える理想咬合は決まっていて、まず1。でこぼこがないこと、2。前歯、奥歯がしっかり噛んでいること、3。横から見た口元が美しいことを目指す。もちろん100点満点になることがないが、それでもそれを目標に診断し、治療する。結果、それに近づけるために非抜歯での治療は無理で、歯を抜かなければダメだと診断する。

 

 ところが一般歯科の一部は、1のみ、つまりでこぼこのみしか考えない先生がいる。上下の歯列を拡大し、奥歯、前歯が全く噛まない、あるいは横顔がゴリラのようになっても、でこぼこは治ったと自分の治療を肯定する。そうした点にクレームをつけると自分の所では抜歯による治療をしないと、これ以上の治療を断る。しかし、こうした先生は、それほど強い使命感で非抜歯治療を行っているものではなく、ただ単に抜歯治療による叢生、上顎前突、上下顎前突のマルチブラケット治療ができないだけなのである。

 

 1、2、3の全てを改善するには、どうしても抜歯とマルチブラケット装置による治療を必要なことが多いため、世界中、特にアジアの多くの矯正歯科医は、床矯正や拡大治療に否定的である。逆に抜歯+マルチブラケット装置による治療ができない、得意でない先生が、床矯正、拡大治療を勧めると言っても間違いない。最近では、これに加えてインビザラインによる治療を勧める先生もいて、床矯正、拡大装置、インビザラインとなるが、全世界の100%矯正歯科医が使用するマルチブラケット装置による治療ができなければ、こうした傍流の治療法ではうまく治療することはできない可能性が高い。

 

 ただこれだけは言っておきたいのは、一般歯科の先生の多くは、子供のうちに矯正治療をすれば、大人になって矯正治療をしなくてもすむかもと思う善意で治療しているし、こうした先生はそれほど極端な治療費も取っていない。結局は、かかった費用、期間と結果のCP(コストパフォーマンス)の問題となり、50-70%の仕上がりでよければ、一般歯科医での矯正治療は否定できないし、それで満足する患者も多い。


 

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