2021年9月12日日曜日

矯正治療費

 





 矯正治療費は、一体どういう理屈で価格が設定されているか、これは全く根拠がない設定をしているのが現状である。東京ではマルチブラケット装置による治療費の総額は70-100万円くらい、地方では60-80万円くらいであり、都会では地方の1.5倍くらいの治療費となる。その理由として東京ではテナント代、人件費が高く、その分高くなるということである。これは美容院などの料金設定とほぼ似通っている。

 

 一般的には、価格=原価+販売管理費+利益となる。矯正治療で言えば、原価は矯正用材料、とりわけ一人一人で毎回使う消耗品となる。矯正用ワイヤーは高いもので1500円くらいするものもあるが、通常は200円くらいで上下でも400円くらい。結紮線やモジュール、エラスティックなどは合わせても200円くらいであろう。つまり毎回の調整の時の材料費としては600円くらいとなる。他には最初につけるブラケット、チューブ類については、ブラケットは高くて一個1500円くらい、通常は600円程度なので、抜歯ケースで24個、つまり1症例分で15000円くらいとなる。

 

 減価償却となる材料費として、矯正用のプライヤーは結構高く、1本2-3万円くらいかかり、今は感染予防の観点から全て滅菌してセットを組むため、来院患者数分のプライヤーのセットが必要である。私のところでは、ミラー、短針、ピンセット、バードピークプライヤー、スケーラー(プッシャー付)、ホープライヤー、エンドカッター、ピンカッターの8種類が基本セットとなり、これを患者数分用意している。多分、こうしたプライヤーの価格が総額、200万円くらいだが、10年以上は持つ。他には診療チェアー、レントゲン装置、タービンなど機械類の減価償却が年間200万円くらい。他の減価償却費を足しても年間多くて250万円くらい、1日20名の患者、年間で4000名とすると1人あたり、一回分の減価償却費は600円くらいとなる。つまり材料費と減価償却費を合わせて1200円くらいが原価となり、これは地方、都会でもほぼ同じ額となる。

 

 次に、テナント料や給与について、東京は青森の2倍くらいと考えられ、都心では30坪のテナントで、月に50万円、衛生士が二名、受付一名の人件費が月に100万円くらいとなり、これに光熱費など足すと、月の経費は150万円くらいとなる。22日、働くと、一日7万円、20人見るとなると、1人の患者に3500円かかる。矯正治療に2年間、保定に2年間、計35回、来院するとすれば、材料費は5、6万円、経費が12万円となり総額で多くても20万円くらい、これが商品で言うところの原価と販売管理費となる。そしてこれを超える金額が利益となる。

 

 一般歯科医では、一日、二十名の患者をみて、平均治療費は15000円、8時間勤務するとすれば、時給で12000円くらいとなるが、これには材料や経費も含まれ、純粋の技術料の時給はこの半分、6000円くらいとなる。矯正患者について言えば、マルチブラケットの装着時が30分、調整は15分、その他、ブラケットの脱離などのトラブルを含めて、30分+15分×4010時間30分で、技術料の時給で見れば、63000円となる。日本の保険診療の単価が低すぎると言う意見があり、自費診療の場合の時給は、保険診療の倍、一般歯科で130000円、専門医では、さらにその倍の260000円となり、治療費の総額は、それぞれ33万円、46万円となる。

 

 ただここで、問題となるのは、患者数で、アメリカでは1日の患者数が100名を超えるところが多く、衛生士あるいは歯科助手が治療の主体となっている。日本ではこうした大規模な矯正歯科医院は少なく、よくて1日20名くらい、年間で新患数が100名くらいの規模となる。この規模であれば、矯正治療費の総額を50万円くらいにすれば、かなり利益が得られるはずだが、新患数が減れば、勢い治療費を上げなくてはいけない。つまり患者数の少ない、矯正歯科医院では治療費を高くしないと経営が難しく、患者数の多いところでは治療費が高くしなくても経営に余裕がある。

 

 また舌側矯正では、表矯正のように15分の調整では無理で、この3倍以上の調整時間をとる医院が多いので、技術料の時給は3倍くらいとなり、先の計算によれば時給が78万円+原価20万円=100万円が妥当な額となる。一方、私のところでは、装着に2時間、調整に1時間かけて丁寧な治療をしていると言う先生がいるが、私も大学にいるときはこれくらい時間がかかっていたが、慣れればこの時以上に良い治療を短時間でできるようになり、時間がかかる=良い治療とは決してならない。つまり患者の多い矯正歯科医では、材料費も多量に仕入れるので、割引も多く、患者にかかる治療時間も少なく、1人あたりの経費も少なくでき、治療費を減らすことが可能であるが、逆に一般歯科医での矯正治療は、材料費が高く、診療時間が長く、経費も高くなり、診療費を高くしないと利益が出ない。

 

結論として技術料をどこまで算定するかとなるが、さすがに現行の保険制度の技術料は安すぎ、その倍くらいの技術料とすれば、個人的な感想であるが、通常の唇側矯正で、40万円から60万円、舌側矯正で100万円くらいが適正な矯正治療費の価格であると思われる。少なくとも、一般歯科医の矯正治療の臨床レベルが、専門医より高いことはなく、そうした意味では、専門医より高い治療費を設定している歯科医はおかしいが、患者数が少ないと材料費や治療時間もかかり、こうした値段になるのかもしれない。


 インビザラインについては、インビザライン社の技工料は、確か25万円程度であり、この治療法はワイヤー矯正に比べて診療時間が少なく、ワイヤーやモジュールなどの消耗品やブラケット、プライヤーなども必要なく、歯科医院がかかる費用は、ほぼ技工代のみとなる。つまりインビザライン70万円とる歯科医院では、技術料が45万円というわけだが、その根拠を聞きたい。もしインビザラインで治らないケースでは、ワイヤー矯正で治療するなら、その費用として45万円はかかるので根拠となるが、インビザライン以外の治療法をしない場合は、つまり1人の患者に45分以上かけて治療する舌側矯正並みの技術料をとっていることになる。日本でまともな舌側矯正をする技術を持つ先生はせいぜい百名くらいで、それに匹敵するほどのインビザライン の臨床技術を持つのであろうか。ボリすぎであろう。





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