2021年9月3日金曜日

矯正歯科医の引退

 



 高校の同級生の多くは65歳になった今、定年となり、年金暮らしをしている。一部の人は、しばらくは関連会社に勤務するにしても、あと2、3年には完全に引退となる、それに比べて医師、歯科医師の同級生は誰1人、引退していない。開業医の多くは、特に引退時期も決めず、病気などで診療ができなくなるまで、診療を続ける場合が多い。あるいは患者が少なくなって、赤字になる場合も診療をやめることがある。私の父も85歳になり、患者も1日に数名しか来なくなった時に診療をやめた。特に旅行などもすることなく、一日中、テレビを見て、ある日、交通事故で88歳で亡くなった。兄も70歳になったが、まだまだ引退する気もなく、死ぬまで歯科医をすると言っている。

 

 どうして医師、歯科医は高齢になっても仕事をするのであろうか。この理由は、ズバリ金である。歯科医院をしていて、従業員がそれほど多くなければ、一日、二十名ほど患者が来れば、月70万円くらいの収入となる。70歳でこれほど収入があれば、そりゃ頑張って働くのが人間の性である。サラリーマンと違い、歯科医、医師とも年金などあってないようなもので、私の場合も国民年金とごくわずかな共済年金しかないので、月7万円くらいである。とてもこの金では暮らせず、働くことになる。

 

 もう一つの理由は、医師、歯科医の多くは、一生のほとんどを自分の仕事だけしてきて、あまり趣味のない先生が多い。引退しても何もすることがないのである。であれば診療をしようということなる。また患者さんから、感謝される職業であり、人の役に立っているという認識は仕事を生きがいとさせる。ただ外科系の先生の多くは、60歳くらいでメスを捨てる場合が多い、時間がかかり、集中力を要する外科手術はできないと思うことと、万一、何かあれば大変だということで手術をしない。歯科も外科的治療の一種であり、細かい仕事と集中力が必要なために70歳くらいで引退するケースが増えてきた。私の父の場合も、70歳くらいから抜歯はあまりしなくなり、さらに神経の治療、歯内療法も嫌がるようになり、もっぱら義歯の治療が中心となってきた。そのため患者数も減少していき、最後は診療所を開けるだけ赤字になり、引退した。

 

 アメリカなどでは大体70歳までにほとんどの歯科医は引退するため、診療所丸ごと、若い先生に売る場合が多い。最近の収支、施設、機材などの減価償却などから値段を決めて、売り出す。もちろん新規に開業するよりはるかに安い費用で開業できるために、若い歯科医はまずこうした歯科医院を購入して、開業する。彼らは歯科大学にかかった学費を早く返すために開業し、ある程度、軌道に乗れば、違うところに開業してもいいし、診療所を改築しても良い。

 

 ところが日本では、どうした訳か、こうした医院の売買はほとんどない。十年ほど前に、日本臨床矯正歯科医会が全国の歯科大学の矯正歯科にいる先生に、矯正歯科医院の継承について尋ねたところ、ほとんどの若い先生は、いくら安くても医院の継承は嫌だ、自分で新しい医院を作るという。実際、私の医院について、若手の先生にタダでもいいので、引き継いで欲しいと頼んだことがあるが断られた。レントゲンや診療台など、買ったばかりで、少なくとも機材だけ2千万円以上、患者も多いので、継承した次の日から収支が望めるが、どうも嫌なのだろう。世の中、面白いことに2000万円、タダであげると言われても、疑ったり、何かあると思い、断る人が案外多い。人生のチャンスはいろんなところに転がっているが、それをうまく利用しない人は多い。

 

 私も現在、70歳頃には引退しようと考えているので、治療期間がかかる小児の矯正治療は、保険適用の口蓋裂患者以外は断っている。また成人の矯正患者については、特に制限を設けずに受け入れているが、これもあと三、四年後には断らないといけないと思う。矯正歯科は1人の患者に少なくとも2年ほど治療期間がかかるために、かなり前もって計画的にやめる必要がある。誰か継承してくれる矯正歯科医がいれば、ただでもいいのでお譲りするのでご連絡ください。



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