サンキンという矯正歯科機材メーカーがあったが、デンツプライという世界的な歯科機材グループの傘下に入り、昨年、突然、提供していた矯正歯科材料の販売を中止した。私のところではサンキンのブラケットをメインにここ二十年以上使っていたので、その影響は大きく、他のメーカーの代替わり品を探したりしたが、ようやく5月頃から日本のトミーインターナショナルが、サンキンの福島にある工場を買取り、ここから製品を販売することになり、何とかなった。医療メーカーというのは、その後ろにユーザーがあり、さらに患者がいるため、単純な経営的な目的で、販売を中止するような事態は問題がある。
デンツプライ社は、収益の多いマウスピース矯正に経営軸を移すために、従来の矯正機材の販売をやめた訳であるが、こうしたユーザー、患者を簡単に裏切る会社の商品を私たち矯正歯科医は今後、買うことはない。さらにいうなら、この会社が新たな矯正治療機材の主力として売り出す「Sure Smile」は、マウスピース矯正を最初に始めたインビザライン社の特許切れの手法を使っただけの商品で、確実に失敗すると思う。従来の矯正治療機材自体は黒字商品であっただけに、矯正治療のことを全く知らないCEOが業績をさらにあげようとデジタル矯正の方向に進めたのだろう。アメリカ型経営の典型的なパターン、つまり大きな利益を得ようとCEOが無茶な経営方法をとり、結果的に黒字の会社を潰すパターンである。こうした例は多い。
サンキンでは、強化コンポジットレジンを材料とした、クリアブラケットという製品をずっと使っていたが、アメリカのGACという会社が開発したOvation Sというセラミックブラケットも販売していた。サファイヤの単結晶に多結晶の強度を加えたポリサファイヤとされ、審美性に優れ、ワイヤーの滑りも良いため、40症例くらいのブラケットを購入して使っていた。ところが実際に使うと、このブラケットはひどい。ブラケットにはウイングと呼ばれる結紮線を結ぶ出っ張りがあるが、この部分が簡単に折れる。ほぼほとんどの症例で折れていて、その度に新しいブラケットに交換するが、また折れる。こうした例は、同じような透明の単結晶セラミックの商品、インスパイアやオームコのラディアンスというブラケットもよく折れた。ただこれらの商品は、最近では丸みを帯びたタイプにしてウィングも太くしたので、前より欠けにくくなった。このOvayion Sも新しいタイプのポリサファイヤブラケットと言われて購入したが、こうした透明のタイプ、サファイヤ系のブラケットは、材料自体に粘りがなく、簡単に折れるようだ。さらに問題があるのが、ウイングが欠け、新しいブラケットに変えようとする時、古いブラケットが綺麗に歯の表面から除去できず、セラミックのベースの一部が歯に残る。セラミックは硬くて、タービンでもなかなか取り切れず、それも大きな問題である。最近、購入した製品では、ひどい失敗製品であった。
インビューやクリアティーなどの白い色がつくタイプのセラミックブラケットではこうしたことがほとんどないため、透明のセラミックブラケットに特有の欠点なのだろう。単結晶のブラケットは、材質はガラスに近く、粘りがなく、簡単にウイングなどが欠ける。最初の単結晶ブラケットができたのが、二十年前以上だったが、その後もその欠点が改善されていないようで、今のままでは実際の治療に使うのはまだまだ無理と思われる。
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