2021年10月8日金曜日

矯正用プライヤーの滅菌、消毒

 

プライヤーラック、こうしたラックを患者ごとに替えているところもある

プライヤーラック

午前中の準備、治療内容により基本セットを用意する

マルチブラケット装置撤去用の基本セット(+プラケット撤去鉗子)

マルチブラケット用の基本セット



 コロナ禍により、政府から各種の補助金が出たので、私の診療室でも色々と滅菌、消毒関係の工事を行なった。開業当初の滅菌、消毒室は不十分な点があったための、この機会に全て改装し、新しくした。また手洗いの水栓もオートのものに変えた。他にも細々なことも改善し、まずますのものとなった。

 

 もともと鹿児島大学歯学部附属病院歯科矯正科では、伊藤学而教授が矯正治療における滅菌、消毒に関心があり、私が入局した時ですら、その前にいた東北大学歯学部附属病院、歯科矯正科よりかなり進んでいた。まずプライヤーについて、東北大学病院ではプラスティックのラックに20種類くらいのプライヤーを立て、使用した後はアルコール綿で拭いて。次の患者さんに使った。こうしたやり方は多くの大学病院、あるいは矯正専門医でも普通であった。ところが鹿児島大学附属病院では、まず基本セットとして、アルミトレーにミラー、探針、バードピークプライヤー、ホープライヤー、エンドカッターとブラケットオープナーという構成であった。ブラケットオープナーというのは、今ではよく見られるセルフライゲーションブラケットの最初のもの、エッジロックというブラケットのシャッターを開くものである。これらが1セットとなり、当日使用するセット、例えば、50セット必要なら、前日にそれを用意して、中央滅菌室で滅菌してもらい、外来に持ってきてもらう。

 

 ほとんど全ての治療はこの3本のプライヤーと行う、ワイヤーをベンディングし、結紮線で縛り、エンドーを切り、曲げる。ワイヤーにループを曲げるとなると、曲げるループによって、様々なプライヤーがあるが、それらの使用は禁止され、バードピークプライヤーのみで曲げる。また結紮する場合もタイングプライヤー、リガチャープライヤーを使えば簡単であるが、全てホープライヤーを使って結紮する。最初は先輩の魔法のような結紮手技に感嘆するが、慣れれば全く問題ない。さらに基本的にはスタンダードではなく、ストレートワイヤーテクニックなので、あまりトルクを入れることもない、どうしても必要な場合のも、袋ごとに滅菌しているツイードプライヤーなどを使う。ただワイヤーやゴムについては、患者ごとに替えるディスポ製品なので、これらは滅菌していない。先生によってはガス滅菌でこれも滅菌している先生もいるが、環境汚染のことからガス滅菌は勧められない。

 

 プライヤー類を全て滅菌するためには、一種類のプライヤーをかなり多く揃える必要がある。当院での基本セットは、ミラーと探針、片方にスケーラー、片方にミニプッシャーがついたインスルメント、舌の落ちたワイヤー、結紮線を取るためのピンセット、そして4本のプライヤー、バードピーク、ホー、エンドカッター、ピンカッターの計8本の器具となる。この基本セットを、それぞれ20セットくらい用意しているが、プライヤーだけで80本、さらによく使うヤングプライヤー、ツイードプライヤーは10本、バンド撤去プライヤー、プッシャー、ブラケットリムバーはそれぞれ5本、一個ずつ滅菌パックに入れてオートクレーブにかけて準備し、必要な場合は袋から出して使用する。これをプラスティックのカラートレーに紙を敷いて、その上の並べ、例えば午前中に8人のマルチブラケットの患者がくれば、8つのセットを用意する。また経過観察患者の場合はミラーと探針、保定装置の患者では、ミラーと探針、そしてヤングのプライヤのセットとなる。バンディングの場合はミラー、探針、プッシャー、バンド撤去プライヤーとなる。こうしたセットはその日の予約簿をみて朝に用意して準備しておく。土曜日など、患者の多いときは、短時間タイプのオートクレーブで足りない分の基本セットを準備しておく。

 

 当院ではマルチブラケット治療用の基本セットはこれ以上、小さくできないが、鹿児島大学矯正科の場合は、セルフライゲーションブラケットを使うことで、ピンカッターと結紮線を折り曲げるミニプッシャーが必要なく、ピンセットもなくせば、プライヤーはバードピーク、エンドカッター、ホープライヤーの3本、その他の器具はミラー、探針、オープナー3つの計6本と2本、削減できる。022のスライディングメカニズムであれば、ワイヤーのループを曲げることも少なく、エンドカッターとホープライヤーの2本で済むかもしれない。アメリカにような1日に100人も200人も患者が来る場合、こうしたプライヤーの種類を減らすことは大きなコスト減となる。

 

 ただこうしたプライヤーを患者ごとに交換するシステムは、出身大学のシステムに関係する場合が多く、欧米のクリニックや大学を見ても、円形、透明のラックの多くのプライヤーを入れて、使ったものをアルコールや他の消毒剤で拭いただけで再びラックに戻すシステムを取っているところがある。以前、秋田に転医した患者さんから、転医先の診療所で、プライヤーの使い回しがあり、汚いので他のところに紹介してほしいという電話があり、案外、こうしたことも患者は見ているようで、患者ごとにプライヤーを替える方向性になってほしいものである。

 


0 件のコメント: