冬の弘前を舞台にした「冬物語」をみてきた。平日の9時という上映時間だったが、そこそこのお客さんが来ていた。ただ年配の方が多く、できれば若い人にみてもらい、おしゃれな弘前の街を映画から感じてほしい。
映画自体は1時間くらいのショートムービーで、弘前のPR映画のような感じがした。地元民にとっては馴染みのある店が出ているというと微妙で、例えば、カレーのかわしまや喫茶店ひまわり、戸田のうちわ餅は皆知っているだろうが、中古レコード店のJOY-POPというと私も存在はよく知っているが行ったことはないし、Slow-Porkも知人からはよく話は聞くが行ったことはない。また活版印刷をしている「Sunday Seaside」という店もネットで見たことがあり、名刺を作ってもらおうと思ったこともあるが、それほど知られてはいないし、またジャズ喫茶の「SUGA」も昔からある店で一度は行きたいと思っている店だが、ここも一部のジャズファンしか知らない名店である。おそらく今の弘前と昔の弘前の両方を知っているブレーンがいて、その人の選択でこうした店がロケ地に選ばれたのかもしれない。いずれもおしゃれな感じで、まるで東京の下北沢のお店のように撮影されている。
普通、津軽、弘前を舞台の映画というと、寺山修司の映画に見られるように、貧しい、暗い、津軽弁、ましてや冬となると、じっと暗い家に閉じこもるといったイメージで描かれることが多い。ところがこの映画では、津軽を舞台にした映画として、初めて津軽らしさを前面に押し出さない映画であり、あたかも東京郊外の普通の街にように扱っている。実際、津軽弁が話されるのは、津軽塗りの職人に所でのシーンだけで、他のシーンに、津軽らしさは全くない。主人公もその彼女も津軽人ではない。一種の他県民サイドでの津軽映画とみなすこともできよう。
内容的には、最初の半分くらいは非常にテンポのいい雰囲気で、特にかわしまでカレーを食べているシーンは、観客にもあの女性は誰だという不思議な感覚、まるで幽霊写真を見ているような感覚を覚え、楽しかった。実店舗を映画の舞台に使うのは難しいが、本映画ではどのシーンも見事に決まっていた。空間的な制約もあり、カメラアングルなど難しかったであろうが、SUGAの奥行きのあるカウンターのシーンもうまく撮っていた。
喫茶「ひまわり」、主人公は、自分は脚本家で、その脚本をその日初めて会った女性に見てほしいと頼む。それも強引に今すぐに見てほしいと頼む。ここから回想シーンとなるが、ここでの男女の会話が興味深かった。回想な中の美しい女性と主人公は、カレーライスを作りながら激しいキスをし、その後、一緒の布団に寝ている。女性の方が、「あなたは今、興奮している?」と聞くと、横にいた主人公はもちろん興奮していると答え、キスしていいかというと、女性は「さっきは興奮していたが、今はそうでないので、ごめん」と謝り、カレーのためのラッキョを買ってきてと頼み、帰ってみるとその女性はいないという設定であった。
私たちの世代、1970-80年代であれば、女性が男性のアパートに来て、一緒に布団に寝ていて、女性にまずキスしていいかなどとは絶対に聞かないし、仮に聞いたとしても女性は、今はしたくないとは言わないだろうし、さらに言ったところで、何もしないわけはない。今の若者は男女一緒に朝まで同じ部屋にいても、何もないのが普通であり、もし何か男性側がHをしようとするのは犯罪ということらしい。この映画はいわゆるラブストーリであるが、今風のラブストーリなのか、淡々として流れで、あまり激しさはない。
全体的には、非常によくできた映画であるが、エピソードの一つに、ローマの休日のグレゴリー・ペックが真実の口に手を入れるシーン、ああした魅力的なシーンがほしかった。私だったら、代官町の歩道が雪のために高さ1mくらいのスロープになっており、それを登るのは大変で転んだ、こんなシーンも入れたい。また禅林街の栄螺堂の迷路を二人で上り、ベンガラで靴下が赤く染まったようなシーン、弘南鉄道大鰐線からの冬の車窓、夜の雪の禅林街、デートコースとしてSUGAに行くなら、その前にあるまわりみち文庫もシーンに入れて欲しかった。旧杉山医院の家具屋、PPPもロケ地としては素晴らしい。撮影の三部正博さん、次回作では取り上げてください。できれば春物語、夏物語、秋物語の4部作を。
最近見た冬を扱った映画として、日台合作映画「青春18×2 君へと続く道」があり、この「冬物語」とは比較するべきではないのだろうが、藤井道人監督が描く、王道の恋愛映画の方が年寄りにはグッとくる。ただ弘前の冬の魅力を発信するツールとして、本作は非常に優れており、台湾やタイ、ベトナムでも、弘前市が広報の一環としてこの映画の使用許可費用を払い、ネットやテレビ、映画館などで公開したらどうだろうか。これを見て是非とも冬の弘前を観光したいという人はいる。台湾のデパートなどでの弘前観光物産展の一環としての上映会やベトナム、タイの旅行会社を招いての観光プロモーションなどにも使えそうである。
弘前市でもこうした観光宣伝のツールとして、計画と予算を立てて、本作を十分に活用すべきだと考える。さらにおしゃれな町というイメージを定着させることは、長い目で見ると、若者離れを防ぐ、あるいはUターンを増やすことに繋がり、衰退の激しい土手町に出店を増やす機会にもなる。映画に登場するかわしま、ひまわり、SUGA、Sea Porkもほぼ土手町と言ってよかろう。若者が店を開こうとするのを行政でもサポートし、できれば中心地の活性化として土手町に出店する場合の改築費や家賃の補助あるいは金融機関の紹介など、簡単に他の地域より開業しやすくしてほしい。福岡生まれの監督、奥野俊作がいいと感じた弘前は、ほぼ土手町と言ってよく、やはり弘前の顔として残すところだと映画をみて、あらためて感じた。頑張れ土手町。
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