2024年12月19日木曜日

第三大臼歯の抜歯

 


最近、大学病院で第三大臼歯の抜歯を紹介したところ、検査、処置、投薬全てが保険扱いにならず、自費扱いになり、患者から泣きつかれた。領収書を見せてもらうと、毎回の支払いが、やれCT撮影で?万円、処置で?円、投薬で?万円、かなり生活に困っている家庭で気の毒であった。顎変形症の患者で、下顎骨の後退の際に埋伏している第三大臼歯があると、切断、プレート接合に邪魔になるために前もって抜歯してもらっている。調べると、保険扱いしている患者もいれば、そうでない患者もいる。青森県歯科医師会の担当理事に連絡し、厚生局の担当者に聞いてもらったが、保険扱いできるということで、大学病院の担当医に連絡したが、歯根未完成で歯胚扱いになるので、保険適用できないとのことであった。いわゆる歯胚摘出(Enucleation)である。鹿児島大学にいた頃も、歯胚段階であれば簡単に摘出できるということで、年間、それこそ数十例の手術を、矯正歯科で行っていた。将来ほとんどの第三大臼歯が埋伏するからである。この時も10歳くらいの小児に対する歯胚摘出術は保険適用になるかという議論があり、その時はギリギリ保険適用になった記憶がある。

 

現在、第三大臼歯の抜歯に対しては、“智歯周囲炎”の診断名で保険適用され、さらに将来的に問題を起こす可能性があるという理由で“埋伏”の診断名でも保険適用されていると思われる。それに対して歯胚摘出については埋伏予防の処置であり、これに対しては必ずしも認められたものではない。10歳の子供に対して“埋伏”の診断名で抜歯するのは、一般的でなく、自費扱いと考える先生もいるだろう。ただ歯根の完成まで歯胚としてしまうと大人になっても、18歳でもまだ完成していない場合があり、その場合は自費ということになる。これは一般的でない。

 

顎変形症患者の抜歯については、手術に必要な抜歯は保険適用となり、術前矯正のために抜歯される上顎第一小臼歯の抜歯も保険適用されるようになった。ところが手術の邪魔になるため抜歯される第三大臼歯の抜歯が歯根未完成なために抜歯できないのは、どうしてもおかしいと思い、いろんな施設に問い合わせたが、どこも保険適用であった。もう一度、大学病院に抗議し、ようやく何とかなりそうになった。

 

ただアメリカで第三大臼歯を抜歯するとなると、口腔外科医に紹介され、一本の抜歯で1220万円くらいする。日本の保険制度では難抜歯(埋伏)でも処置点数で言えば1080点、つまり一万円くらいで、検査、投薬費用も含めて患者負担は5000-10000円程度で、アメリカの1/20程度となり、極めて安い。口腔外科医からすれば、抜歯、特に埋伏歯の抜歯は、神経を傷つけ、術後障害を残すリスクもあり、こうした安い点数ではやりたくないというのはわかる。実際に、第三大臼歯が何か問題を起こすとなると、最初に述べた智歯周囲炎による痛みくらいで、完全埋伏している第三大臼歯はそれほど症状を引き起こすことは少ない。矯正の先生の中には、矯正治療後の後戻り防止のために、全ての患者に第三大臼歯の抜歯を勧める先生がいるが、論文的に第三大臼歯の有無による矯正治療後の後戻りには差は見られない。

 

そのため、埋伏している第三大臼歯を抜歯するかどうかについては、私自身否定的で、Enucleationのように簡単に抜歯できるなら予防的に抜いておくのはいいが、成人になって骨を削除して、下歯槽管神経損傷のリスク、術後の腫れを考えると、あまり勧めたくない。第三大臼歯については、他の永久歯のように完全に萌出し、咬合に参加する可能性は極めて低く(90%以上は埋伏あるいは半埋伏)、それを考えれば日本人には基本的に第三大臼歯は必要ないものとして、学童期の歯胚摘出について新たな処置項目として保険適用にしてほしい。


0 件のコメント: