口蓋裂、ダウン症、その他の先天性疾患に伴う不正咬合、外科的手段が必要な骨格性の不正咬合については保険適用となっている。私の診療所も開業医以来、30年間、弘前大学医学附属病院の歯科口腔外科、形成外科、あるいは八戸市立市民病院、東北大学病院、大館市立病院の歯科口腔外科と連携し、230名の口蓋裂患者、414名の顎変形症患者の治療を行ってきた。総計で保険適用患者は、644名で、全体の患者数の20%であった。全国の矯正歯科医院の中でも保険患者の比較的多い歯科医院といえよう。
歯科大学のある大都市部では、これらの患者は大学病院に行くケースが多いため、開業医で治療することは少ないが、地方都市では地域の患者が開業医に集中する。青森県の場合は、同年齢の三名の矯正歯科医が青森市、弘前市、八戸市をカバーしてきたが、私も含めて、このうち二名は引退し、残りの先生も子供が引き継がないと引退するだろう。矯正歯科の専門医になるためには、まず6年間の歯学部教育を受け、さらに1年間の研修医、そして大学の矯正科の医局に残り、少なくとも6年程度の研修を受けて認定医をとる。さらに専門医を取るためには4年以上の経験が必要で、ここまで17年かかる。自分の子供を矯正歯科にするのは、なかなか難しく、他学部にいったり、矯正専門医にならなかったりすることも多く、友人の矯正歯科医でも子供が跡を継ぐケースは半分くらいである。
現在、弘前市には私も含めて四名の日本矯正歯科学会認定医がいるが、私以外の三名は保険の治療をしていない。この理由としては、保険適用をするためには、新規で始める場合、歯科保険のレセコンとマイナンバーカードの機器が必要である。両方を揃えるとなると数百万円の費用がかかるだけでなく、外科矯正治療をするためには、セファロ、パントモの他に、顎運動測定装置、筋電図が必要であり、この機械が300-1000万円かかる。私の診療所のように保険適用患者が年間で20人以上くるのであれば、これだけ費用がかかってもペイできるが、年間数人しか来ないととてもペイできない。さらに研修大学では、口蓋裂班、あるいは外科矯正班など、矯正科とは別のチームを作っているとこもあり、そうした大学矯正科では、チームに入っていないとあまり臨床経験もない場合がある。
口蓋裂、あるいは先天性奇形の患者さんが、弘前大学医学部病院形成外科から、紹介されるのは2、3歳ころで、通常、高校卒業の18歳くらいまで矯正歯科で管理していく。その間、常の治療しているわけではなく、様子を見ている期間は半年おき、実際に治療に入ると1ヶ月おきの通院となる。15、16年間以上診ていくことになる。それでいて、少子化あるいは元々症例が少ないので、例えば口唇口蓋裂の場合は、出生率から津軽地区でも年間3、4人の患者さんであり、県内にそう多くの矯正歯科医院を必要としない。私もあと1年で辞めるため、そろそろ保険適用患者、特に口蓋裂の患者さんにはその旨を説明し、少しずつ紹介している。残念ながら保険適用の矯正歯科医院は弘前市にない。青森市の同級生の息子さんが矯正歯科の研修を終わり、跡を継ぐようなのでそちらを紹介しているが、患者さんには相当、ご迷惑をお掛けしている。また外科矯正患者については1年以上前から新規の受付を中止しているが、主として大館市の矯正歯科医院を紹介している。
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