2025年8月10日日曜日

シンシナティー美術館への追加寄贈


 

田中蘭谷





田能村直入落款






前回のブログで述べたように、シンシナティー美術館へ39点の作品を寄贈した。その後、オークションで田中蘭谷の「芙蓉美人図」という作品を落札したので、これもシンシナティー美術館に寄贈した。館長がすごく気に入って、今年のホリデイカード(クリスマスカード)にしようと意気込んでいる。というのは、まだ詳細は不明であるが、来年、日本でシンシナティー美術館の西洋画、ゴッホやピカソなどの巡回展を日本で開くそうだ。そのための寄付金集めにこの田中蘭谷の美人図のホリデイカードを使うという計画なのである。涼しげな、夏らしいいい絵である。細いことを言うと、上村松園などの美人画家に比べると、線の美しさが違い、松園のような細くて綺麗な顔、衣の輪郭線が描ききれていない。それでもいい作品である。

 

実は、もう一点、寄贈しようと思っている作品があった。母親の遺品、厳密に言うと父親の母、私の祖母の掛け軸である。戦前、大阪で遊郭を経営していた祖母は裕福で、多くの骨董品を持っていて、一部が残っている。その中でも、田能村直入の「白衣観音図」がよく描かれている。これも一緒に寄贈しようと思い、実家から持ち帰り、こちらで調べている。美術館では原則的には本物、偽物の鑑定はしていないので、偽物の疑いのあるものは決して受け入れない。100%本物以外は受け入れない。これまでシンシナティー美術館に寄贈した作品は、香川芳園、田中蘭谷、など無名の作家の作品で、偽物はない。唯一、比較的名前が知られている望月玉泉くらいか。作風、落款、印章はほぼ一致し、また玉泉はそれほど偽物がないため、本物として送った。シンシナティー美術館の調査でも本物と思われると言う答えだったので寄贈した。

 

今回、寄贈しようと思った田中蘭谷の偽物は絶対にない。一方、田能村直入は、戦前、人気のあった画家で、偽物が多いので有名な画家である。また祖母が骨董屋から買った作品は偽物が多い。一つは土佐光貞の伊勢物語の大和絵であるが、箱書きには適当な鑑定書があるが、程度の低い贋作であった。もう一つは翠石の落款のある南画で、これは虎図で有名な大橋翠石の作とされていたが、調べると大阪の近藤翠石という画家の作品であった。ほぼ無名の画家で、いずれの作品も祖母が骨董屋から大金を払って購入したのだろう。ならば、この直入の作品も贋作の可能性がある。

 

大きな観音と子供という絵の構図は、少し奇妙であるが、同じような類型は本物の田能村直入にある。輪郭線は狩野派のタッチで太いが、観音の表情が良い。また全体の雰囲気は良いし、画賛の文字もほぼOKである。多少、画質が劣るが、早書きであれば、この程度かと思う。ただ決定的な問題点は印章で、2つの印章、特に上の印章が微妙に違う。印章の鑑定は難しく、朱肉の付きによっても変わってくるが、これはないという違いである。画、画讃、署名は本物と考えてもいいかもしれないが、落款印が違うため、贋作とした。田能村直入のように贋作が多い画家でなければ、ギリギリ本物となったかもしれないが、購入した骨董屋のことも含めると贋作といえよう。

 

ただこれは言えるのは、もはや日本画、掛け軸の贋作はでないであろう。掛け軸そのものの価値が低下し、時間と手間をかけて贋作を作っても全く売れないからである。一方、オークションの中には本物、贋作が、玉石混交で溢れている。通常、本物は偽物よる値段は高いものでが、今では同じ値段で売られているので、全く値段だけではわからない。もちろん骨董屋も贋作をつかまされないように勉強しているものの、白黒はっきりすることは不可能で、グレーの部分が広い。AIを用いれば、もっと鑑別は容易になるかもしれない。ただAIといっても誰かがデータベースを作成しなくてはいけなく、それほど世界的にも日本画が需要は少なく、無理なような気がする。ピカソやゴッホのような洋画家の方が鑑別AIの開発は早いだろう。






田能村直入 印章集





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