2026年3月9日月曜日

矯正治療のAI化

 


不正咬合の治療、矯正治療は、おおまかな治療方法はほぼ確立しているが、個々の患者の治療法となると全ての患者で違う。色々な要素が治療に絡んでくる。まずセファロ情報としては、上下の顎の関係、上下の切歯の傾き程度、鼻と口元の関係、今後の成長、気道の大きさ、などから、手術を併用した方が良いのか、抜歯した方がいいのかを検討する。オルソパントモ写真からの歯根の長さ、う蝕、エンド処置、第三大臼歯、埋伏、先天性欠如などをチェックし、さらに模型からは大臼歯、犬歯関係、オーバージェット、オーバーバイトなどを調べて、これらのデーターを総合して、治療方針を立てていく。ベテランの先生であれば、30分もあれば、ほぼ治療方針を立てられる。こうした治療方針をもとに実際の治療が行われるが、20-30%くらいはうまくいかない。咬む力が弱ければアンカレッジが弱いし、しっかり咬ませるのは難しい。舌の癖が強いと開咬になることもあるし、抜歯部が狭窄すると隣接歯の動きが遅くなったり、あるいは歯根吸収、骨性癒着、歯の動き自体が遅いこともある。さらにヘッドギーアやゴムを使ってくれない、歯磨きをしてくれない、来院してくれないなどの患者自身の問題もある。

 

ただこうしたデーターも多く揃え、細かくデーターを入力すれば、今のAI技術でかなり正確な診断ができる。昔、40年くらい前のことだが、鹿児島大学の伊藤学而先生の提案で、全国の歯科大学の矯正科と共同で、大きなデーターベースを作り、診断に役立てようとしたことがある。当時のコンピューターレベルでは、セファロ分析値などのデータくらいしか入らなかったが、今ではセファロ、パントモ、模型、顔面、口腔内写真そのものを入力し、AI技術で類似症例の検索から治療法の提案までおそらく現行の技術でも可能であろう。

 

ただ問題はここからで、多くの症例をAIで学習させれば、同じような症例が出てくるし、その治療法も出るだろう。例えば、上下左右第一小臼歯抜歯、ヘッドギアー併用、マルチブラケット装置で約2年間という結果が出たとしよう。それではこの通りに治療すれば、治るかというとそれはなかなか難しい。個々の患者、あるいは治療経過によって治療方法を修正する必要がある。毎回、毎回、検査を行い、その都度、治療方針をAIで判断していけば、確かにできるかもしれないが、時間がかかるし、ワイヤーを曲げるのは術者で、その技術に個人差がある。機械でワイヤを曲げる方法があれば、これもAIに任せることができるかもしれない。

 

つまり未来の矯正治療は、ブラケットは全てセルフライゲーションブラケットを使い、オームコがしていたような個人、個々の歯ごとのトルク、インアウトの入ったブラケットを個人トレーで装着し、AIの指示に従って、ワイヤーを交換していく。毎回、写真を撮り、これもAIの指示により、ベンド、トルクの入ったワイヤーが自動的に作製され、それをセットする。毎回、毎回、こうした手順で治療を進めていく。ゴムのサイズは自動的に距離から強さを決定する。ここまですればワイヤー矯正については、ほぼドクターなしで治療が可能かもしれない。それでもうまくいかない症例が出る。

 

マウスピース矯正については、矯正治療のプロである矯正専門医での普及率が10%くらいなので、適用症例が限られ、主流とはなっていない。まだまだワイヤー矯正を超える存在にはなっておらず、個人的な感想をいえば、今後もその傾向は変わらないだろう。優れた治療法はどのような分野であっても驚くべき速さで浸透する。マウスピース矯正も登場してはや20年以上経ち、それでいて専門家で、もっとも多くの矯正患者を見ている矯正歯科専門医でもまだ10%くらいの症例しかない現状を考えるとこれ以上の発展は難しい。現状では、AIによるワイヤー矯正治療法を確立した方がいいのかもしれない。昔、テレビドラマで、手術をAIの助言で進めていくような話があったが、最終的には術者の技量で手術の良否が決定されていた。ダビンチのようなアシストツールが自動的に手術を行うようになるのはまだまだである。

 

ただ矯正治療でいうと20-30%のうまくいかない症例についてはAIによる診断はできても、舌突出癖などAIで治るわけではなく、最終的には“舌機能の異常による開咬です。何度も舌機能訓練をしていますが、治りません。これ以上、治療を継続しても無理でしょう」という回答になろう。この場合でも、最初の診断の段階では、「舌機能の異常による開咬です。小臼歯抜歯による成功率は  %、大臼歯の圧下(アンカースクリュー)による成功率は  %、手術を併用した場合の成功率は  %、後戻りも含めて成功率は  %となります」くらいになろう。結局はどの治療法を選ぶからは術者の経験と患者との話し合いになり、AI任せにはできない。

 

一時は、未来の矯正治療として、歯の移動を促進させる物質(プロスタグランジンなど)を利用する方法も模索されたが、あまりエピデンスがなく、それほど治療期間の促進効果もないため、ギブアップ状態である。未来の矯正治療をAIで調べても、独立移動型裏側矯正装置(Bravaなど)やAIマウスピースなどが出てきるが、これはネット上の“未来の矯正治療”といった語句からだけのもので、全く無意味である。おそらく可能性として高いのは百年後も基本的には現状のワイヤー矯正が主流であろうし、それを使う優れた矯正歯科医が必要であろう。むしろう蝕は現状でもかなり少なくなり、将来的には歯周疾患、う蝕もワクチンができれば、ほぼなくなるであろう。そうした未来では、歯科医=矯正歯科医+口腔外科医になるかもしれない。その場合、口腔外科医の仕事は先天性疾患、口腔がん、嚢胞、抜歯(う蝕、歯周疾患以外の原因による)に限られ、矯正歯科が歯科の主流となりうる。


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