2010年1月14日木曜日

カズオ・イシグロ


 今年の冬休みは、大雪で雪かきに追われ、散々でした。おかげで外にでることもなく、ずっと家で本を読んでいました。一日2冊、10冊くらいは読んだでしょうか。悪人(吉田修一、朝日文庫)、秋山真之のすべて(新人物往来社編、新人物文庫)、聖灰の暗号(帚木蓬生、新潮文庫)、ハリウッドスターではみんな日本人をマネしている(マックス桐島、講談社@新書)、まんがハングル入門(高信太郎、光文知恵の森文庫)、たんたんたたた(兵頭二十八、光人社NF文庫)、AH-64アパッチはなぜ最強といわれるのか(坪田敦史、サイエンスアイ新書)、ダブル・ジョーカー(柳広司、角川書店)、夜想曲集(カズオ・イシグロ、早川書店)。一貫性のない乱読状態です。

 このうち面白かったのは、カズオ・イシグロの短編集くらいでしょうか。この作家は日本人ですが、5歳のころからイギリスで暮らしているため、日本語ができない作家です。好きな作家のひとりでこれまでも「浮世の画家」、「日の名残り」、「わたしたちが孤児だったころ」、「わたしを離さないで」と、翻訳されたものはほとんど読んでいます。今回は著者初めての短編集で、音楽をテーマにした5篇の連作から成っています。オチも何もない作品ですが、雰囲気があって小説家としては本当にうまいひとだなあと改めて感心しました。

 内容についてはくわしくは紹介しませんが、この小説で紹介されている曲?が私の好きな曲と一致しているせいか、読後妙に音楽を聞きたくなりました。2編目の「降っても晴れても」では、古いジャズが好きな一組の男女と女の亭主が主人公で、最後の場面ではサラ・ボーンの「パリの4月」が効果的に使われ、男女のコミカルな関係を描いています。

 「パリの4月」というと、真っ先にチャーリー・パーカーの「チャーリー・パーカー ウイズ ストリングス」を思い出しますが、ボーカルというとサラ・ボーンの1954年のもの、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングのものが代表的ですが、この小説の主人公はエラを嫌いなため、当然サラのものが流れる訳です。私個人としては、ヘレン・メリルの「ローマのナイトクラブで」というラジオ番組をアルバルしたものに入っているのも好きです。

 この「パリの4月」という曲はドリス・デイ主演の映画でヒットした曲のようですが、ゆったりとしたバラードで英語の意味が割合取りやすい曲です。「I never knew the German spring」と口ずさむのですが、いつも何でドイツの春が現れるか疑問でした。今回歌詞を調べると「I never knew the charm of spring」と全く意味が違いました。「charmon spring」と「f」が聞こえなかった上、CをGと聞き違えているようです。

 イシグロの作品の中で唯一の失敗作は日本人を主人公にした「浮世の画家」でしょう。本来日本人であれば最も描きやすい題材ですが、何だが外人が書いたへんてこ日本人の小説のようで、どうも違和感ばかりが先に立ちました。長崎出身のイシグロさんは「charm of spring」は「German spring」とは聞こえないくらい、すっかり英国人になったのでしょう。イギリスのブッカー賞を授与され、村上春樹と共に日本人?としては最もノーベル文学賞に近い作家です。

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