2010年1月27日水曜日

新しい矯正治療法 インプラント矯正


 最近の矯正歯科臨床における進歩として真っ先に挙げられるのが、インプラント矯正(最近ではTADと呼ぶようになっている)でしょう。10年ほどの前までは、たまたま患者さんの中で歯のないところにインプラントを希望する人がいれば、そのインプラントを利用して他の歯を動かすという消極的なものでしたが、最近ではほとんどの症例でインプラントが使われるようになりました。

 なんといっても便利なのは、歯の加強固定が必要ないことです。小臼歯を抜いて、その隙間をつめるためには、通常前歯が中に入り、奥歯が前に寄ってつまってきます。出っ歯のように主として前歯のみを後ろに動かし、奥歯が前に寄ってほしくない場合、この加強固定が使われます。一番有名なのがヘッドギアーと呼ばれるもので、帽子型、ネックバンドからバネのついた装置を口の中の装置と結び、奥歯を後ろに送るような力をかけます。1日に10時間程度、使用することで奥歯が前に寄るのを阻止できます。ただ寝る場合にも横向けにはなれず、使う側からすれば大変やっかいな器具です。とくに成人で使用する場合は、抵抗があります。

 現在では、固定を考えない症例以外は、成人矯正では多くの症例でインプラントを用います。それにより治療システムが簡単になるだけでなく、患者さんの協力なしでも、計画通りに治療を行うことができます。ただこのインプラントもけっしてそれが万能、魔法のようなものではなく、治療全体の一部を楽にしてくれるものであり、治療自体の基本は従来と同じです。

 多くの新商品は、最初は脚光を浴びて、次第に廃れていきます。例えば歯の移動速度を早め、治療期間を早くする薬としてプロスタグランジンが注目され、注射、貼り薬として歯茎につけ、実用化が期待されましたが、今では全く忘れられました。下あごの成長を押さえるチンキャップについてもキャッチアップグロースという晩期成長が言われ、最近ではこれも使われていません。

 こういった新しい治療法が出る時は、最初はかなり肯定的なデータが学術誌に出てきます。その後、追試研究で次第にそれほど効果がないといったデータがで、またそれに対する反論が出てきます。どうしてこういった逆の結果が出るかというと、臨床研究というのは最初からこういった結果がでてほしいという研究者の仮説から研究が始められます。Aという治療法は効果があると信じて研究を始めると、そうでない結果がでた場合は発表しませんし、逆に少しでもいい結果がでれば関連があるとして発表するからです。そこにはバイアス、つまりこうだと思い込む前提があるため、計測する場合も少しずつ差がでるように無意識に測ってしまうということもあります。結局は一般の矯正歯科医が実際に使ってみていいものは残り、だめなものが廃れていき、研究も次第になくなるといった過程を踏むようです。矯正治療は早くても2年以上かかるため、結果が出るのは時間がかかります。新製品が出たといって、データを信用してすぐに利用すると、失敗することもあり、できれば数年待って使うようにしています。インプラント矯正についても、2000年ころから学術誌にもよく載り、商品化が活発になってきましたが、私が使いだしたのは2005年くらいで随分利用は遅いほうです。

 歯科矯正治療の基礎は、1920年代にはほぼ完成しており、その後の発達は主として術者側の便利さと患者側の快適さに尽きると思います。治療期間はここ100年でも短縮されていませんし、完成度もそうは変わっていません。ただ100年前に比べて簡単に治療が可能になったと言えますし、患者さんにとっても治療自体は楽になったと思います。そういった意味では、一部の優秀な矯正医しかできなかった治療が大抵の歯科医でもできるようになったし、患者さんも審美ブラケッットや舌側矯正のような目立たない治療も可能になり、より誰でも治療できるようになっています。

*動画のインプラントは旧式のもので、現在のインプランはセルフドリリングというタイプが多く使われています。切開や穴あけなしで歯肉にそのまま植立します。

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