2011年10月27日木曜日

Art Coreというお店




 わたしがキリムや絨毯などのラグに興味を持ったのは、家を新築するにあたり、何かリビングに敷くカーペットを探していたことがきっかけです。当時、モダンリビングという雑誌をよく購入し、家の設計について検討していましたが、その雑誌の小さな記事に西宮のアートコアのことが載っていました。実家とも近かったので、阪急夙川近くのアートコアに初めて行ったのが1998年ころのことです。こういったお店に行くのは、生まれて初めてで、白いモダンな建物の中に入ると、まず壁にコーカサスの絨毯が飾られ、奥にはダークブラウンの板張りの広い部屋があり、四隅にキリム、絨毯が積み上げられていました。新築の部屋に敷くキリムを探していると伝えると、部屋の雰囲気、大きさに沿ってキリムを次々と広げ、見せてくれます。

 その時に購入したのが、イランのローリ族のものです。土をイメージさせる配色と白のアクセントが効いたすばらしいものでした。時代は1940年ころのものです。もともと調べるのが好きな性分なので、このキリムのことを調べるために、「kilim the complete guide」という本を購入し、勉強しました。キリムの持つ奥深さを知ることができました。その内、もう一枚ほしいと、再度art coreを訪ね、購入したのがイラン、セネのキリムでした。このキリムはセネ独特の目が回るような図案がなされ、小型ですが、実に味わいのあるものでした。時代は1930,40年ころと思います。セネのキリムは比較的時代を推測するのは難しくありません。その後、セネをもう一枚ほしいと思い、買ったのが写真下のもので、時代は1950,60年代のものです。竹原さんはあまり勧めませんでしたが、どうしてもセネをと買ったのですが、派手で私の持っているラグでは一番好きではありません。その後、イラン、アフシャールのキリムを買ったのですが、これは編みが半端でないほどきっちりとしており、逸品だと思いました。その頃、2002年ころですが、キリムもいいものはイラン、トルコから消え失せ、先のアフシャル族のものも確か、スイスかドイツで竹原さんが買い付けたものです。いわゆる品薄状態になってきたようで、それに比例して値段も高騰しました。

 Artcoreでも、キリムの価格が絨毯の価格と近くなり、コーカサスの絨毯も揃えるようになってきました。そこで私もキリムからその本家である絨毯に鞍替えし、まず最初に買ったのが、コーカサス、カザック(Fachralo?)のものでした。時代は比較的若く、20世紀初頭のものですが、織り手の若々しい感性が現れた作品で気に入っています。他にもすばらしいコーカサスの作品があったのですが、金額の関係で購入を諦めました。その後、診療所用にイラン、ザーランドの新しいキリムも購入しました。これは1960,70年代のものと思われます。2005年突然、竹原さんから店を閉めるとの知らせが来ました。びっくりしましたが、在庫品を半額で売りますとのことで、3点の絨毯の写真が添付されていました。一点はコーカサス、カザックのもので緑色のグランドが美しいもので、19世紀後半、それにコーカサス、カラチョフのもの、これは少し若く20世紀初頭、3つ目は、トルクメン、サリークのもので、19世紀後半のものです。これらが半額ですので、十分に射程圏内です。この頃は、家内もあきれ顔で早くやめてほしいと思っていたのでしょう。コーカサス、カラチョフはパイルもすり切れてはいますが、コーカサス絨毯が好きなひとには、たまらないもので、すぐに購入を決めましたが、もう一点トルクメンのものは、信じられないほどコンデションがよく、上等のウールを用いているのでしょうか、ビロードのような肌触りでした。竹原さんはこれを推奨しているようでしたが、2点も買うのはまずもって家内には承諾得られないので、諦めました。これほどの逸品はその後もあらわれず、未だにくやしい気持ちです。(「借りくらしのアリエッテイー」の舞台の邸宅。玄関ラグはクルドかコーカサス絨毯(Genji?)ではないでしょうか。)

 Artcoreの閉店(今は娘さんがやっています)後、一切ラグ類は購入していません。ラグの展示即売会があれば、顔を出すようにはしていますが、artcoreで目が肥えてしまい、全く興味は持てません。何より竹原信爾さん、祥子さんご夫婦ほど該博な知識をお持ちの方はおられず、こういった方と知り合いになり、良質なラグを購入できた事は本当に良かったと思います。竹原さんは白鶴美術館、絨毯美術館のラグの購入、鑑定にも関わってきた、この分野では日本の第一人者と思います。2002年ころからは、イラン、トルコに行っても気に入ったものがなく、ドイツ、アメリカ、イギリスなどで買い付け、イラン、トルコで修理して売るようでは、商売的には成り立ちにくいとこぼしていました。現在は、さらに状況はきびしく、トルコ、イランはもとより、アフガニスタンですら良質のラグはなく、あったとしてもべらぼうに高く、家庭のインテリアで使うようなものではありません。

 すばらしいキリムの産地、トルコ、ワン地方での地震がおこりました。他人事とは思えません、何とか先の東日本大震災のお返しをしたいと考えています。

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