2011年11月17日木曜日

歯科用CT



 近年、歯科分野でもIT化の勢いはすさまじく、とくに歯科用レントゲンではデジタルレントゲンが主流となり、かっての銀塩カメラと同様に昔ながらのフィルムを使ったレントゲン撮影は急速に衰退している。製品の多くもデジタルレントゲン装置が中心で、わずかに1、2機種フィルムタイプの機種が残っているだけである。さらにインプラントをやる歯科医院が増えるとともに、歯科用CT、コーンビームCT装置を導入する歯科医院も多い。現在、歯科器材業者はCT装置の販売に力を入れている。

 ところがヨーロッパ、アメリカでは、2009年頃から歯科用CTによる被爆が問題化されるようになり、その使用についてガイドラインが設けられた。欧米におけるガイドラインの意味は大きく、それに従わないと裁判では不利になってしまう。このガイドラインでは、基本的には通常の臨床での歯科用CTの使用は禁じられ、とくに小児の撮影はかなり制限されている。矯正歯科でいうと、対象は埋伏歯(断層幅を狭くして)、唇顎口蓋裂、顎変形症などに限定され、それ以外の頭部全体をスキャンすることは被爆線量の点から推奨されていない。

 それを受けてか、アメリカ矯正歯科学会雑誌も確か2009年ころ、編集委員長が巻頭言でヨーロッパのガイドラインを紹介し、それ以前はコーンビームCTを使った研究一辺倒であったが、これを契機にコーンビームCTの研究、あるいは症例報告は激減している。ひとつには編集委員会の段階で、こういった研究をリジェクトしていることによるだろうし、研究機関、大学での倫理委員会でも研究のためにCT撮影が許可されないためであろう。

 一方、日本では日本大学の新井 嘉則先生が、クインテッセンス紙上で2度ほど、CT撮影の使いすぎを警告しているが、インターネット上では相変わらず、最新の装置として歯科用CTの存在が誇示されている。また矯正歯科雑誌においても、歯科用CTを用いた分析法などの論文が見られるが、通常の矯正患者に対して、積極的にCTを撮るような趣旨は上記のガイドラインに反する。確かにコーンビームCTを撮り、頭部を3次元、立体的に把握できることは、私個人としてはすごいとは思うが、直接診療方針を左右するものではない。歯科矯正臨床で治療出来るには、歯の移動を主体としたもので、頭部全体の骨のゆがみをコントロールできるものではないからだ。従来型のセファロとパントモ写真で問題はないし、外科的矯正や埋伏歯がある場合は、大学病院にCT撮影を依頼すればよい。症例としてはそう多くない。

 また歯科医院の方もデジタルレントゲンの導入により被爆線量が1/10になった、私のところは安全に気をつけていますと盛んに宣伝している。ただこの1/10というのもくせ者で、どうも初期のレントゲン会社がこういったうたい文句で宣伝した残滓が残っているようで、感度を上げれば画質は低下し、従来のフィルムと同程度の新鋭度を得るには1/10ではとても無理で、医院でも実際の撮影条件は1/10の線量で撮影しているとは言えないし、逆に見えないようなレントゲン写真を撮る意味がない。医科の方では、メーカーも従来型より放射線量が小さくできるという表現にとどまっている。ちなみにもともとパントモ、セファロは増感紙を使っているため、被爆線量は少ない。

 歯科レントゲンによる被爆線量についてのアメリカでの動きは、歯科とは関係ない中村隆市さんのブログにくわしい。(http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-7007)またヨーロッパのガイドラインは日本語されていてわかりやすい(歯科X線診断における被曝 歯科X線検査の放射線防護に関するヨーロッパのガイドライン:歯科診療における安全なX線の利用のために http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsomr/European%20guidelines.pdf)。かなりきびいしい内容のガイドラインであるが、いくつか紹介したい。歯科用デンタルフィルムは感度の高いE,あるいはF感度のものを、またセファロの撮影では希土類増感紙に使用が推奨されている。またCCDを用いたレントゲンではE感度のフィルムの30%程度の低下(F感度と同じくらいか)になるとしている。またこのガイドラインではCCDによるデジタルパントモ撮影は増感紙を用いたフィルムより線量低減はないとしており、上述した1/10になるという意見は完全に否定されている。昨今は、福島原発事故以降、患者さんの放射能に対する関心は高く、歯科医師、学会、歯科医師会も十分な対応が必要と思われる。一読をお勧めする。

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