2013年12月22日日曜日

妻と飛んだ特攻機 その2









 「妻と飛んだ特攻兵」については、こちらの不用意な言葉で関係者にご迷惑をおかけしました。この場を借りてお詫びいたします。

 これとは関係なく、飛行機好きの私から見れば、少し気になる点があるので、少し検討する。

 「妻と飛んだ特攻兵」では、大虎山飛行場の実働可能機として、97式戦闘機を改造した二式高等練習機と95式初歩練習機の11機としている。二式高等練習機は97式戦闘機を改造したもので、エンジンは出力710馬力から515馬力のに変え、それに伴い最大速度も340キロと原型に比べて120キロも低下している。バリエーションとしては複座の乙型があるが、主として生産されたのは単座の甲型である。航続距離は920kmであった。

 一方、95式初歩練習機(三型)は、中間練習機である95式一型練習機のエンジンをより低出力にしたもので、発動機を350馬力から160馬力にし、それに伴い最高速度も240kmから170kmに低下し、着陸速度も90kmから76kmと初等訓練機らしくなっている。巡行速度は140kmで、後続距離は480kmであった。

 ところが「津軽異聞」では飛行可能な機体は、97式戦闘機が9機、98式直協偵察機が2機となっている。大虎山飛行場は練習隊であるので、98式直協偵察機は99式高等練習機のことであろう。99式は98式とほとんど同じで、違いは後部と前部の操縦装置が連動するようにしただけである。最大速度は349kmで、航続距離は1060kmであった。ちなみに巡航速度は220kmであった。

 神州不滅特別攻撃隊を見送った人々の証言を「津軽異聞」から抜粋する。
「白いワンピース姿の女性二人が、見送りの形で飛行機の近くにいましたが、プロペラが回ると、さっと後部座席へのり込むのを見ました」(藤本兵曹)
「飛行機から離れたところにいたので、最初はわからなかったが、エンジンが始動して次々と飛び立った時、ある機の後部座席から黒髪が風になびくのを見てびっくり仰天。あれは軍紀違反ではないかと思いました」(鶴田少尉)
「皆の歓声で、一機または一機と飛び上がる。なかの一機(複座)の後方座席に女性の黒髪がなびいていた。上空で編隊を組み終わると翼をふりつつ、一度、二度と低空で別れを告げ、北方熱河方面に飛び去っていった」(堀江少尉)

 これらの証言から、谷藤少尉と大倉少尉の乗った機体は複座機であることがわかる。9機については、二式高練機であったと思われるが、二機の複座機は95式初歩練習機か、99式高等練習機のどちらかということになる。機種の異なる機体が編隊を組む場合、あまり速度差が大きいと編隊飛行が非常に難しい。複葉機の95式初歩練習機と二式高等練習機では速度差が二倍近くあるので、その点からは二式高等練習機と99式高等練習機の組み合わせが一番しっくりとくる。95式は風防のない開放式で、女性が乗り込むにはいかにも目立つ。また赤峰、四平方面に攻撃に行ったとすると、航続距離が400km程度の95式初歩練習機では不安が残る。おそらく谷藤および大倉少尉の乗った機体は、密閉風防の99式高等練習機と思われる。ちなみに離陸時、風防は開けたままにする。


 99式高等練習機の速度は349km、二式高等練習機の速度は340kmで、ほぼ同じ速度、航続距離で、敵地上空まで編隊飛行を続けたに違いない。99式高等練習機のコクピットの中で夫婦がどんな会話をしたのであろうか。写真はタイ空軍に保存されている99式高等練習機のコクピット内部である。二式高等練習機の複座の可能性もあるが、配備数が少なく、開放風防でこれも目立つ。

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