2014年3月9日日曜日

強制徴用問題


 中国では、戦前に強制徴用された元労働者やその遺族が、企業に損害賠償を求める訴訟をおこしました。これまでも何度か、こういった訴訟騒ぎがありましたが、日中関係を考慮して、裁判所で訴訟を受理しませんでした。今回は、どうでしょうか。三権分立が確立していない中国では、受理イコール勝訴、損害賠償となりますので、日本企業は莫大な損害賠償を求められることになるでしょう。

 当然、日本政府は1972年の日中共同声明で、中国は賠償請求権を放棄したとして、この損害賠償は飲まないでしょう。逆に中国も個々の賠償請求まで否定はしていないと反論し、最終的には日本側から国際司法裁判所まで提訴するかもしれませんが、中国側が応じなければ、これで終了です。

 裁判所の判決によっては、企業資産の差し押さえまで発展するかもしれません。そうなると、日本企業は一斉に中国から引き上げるとことになり、欧米各国の企業も同様な政治リスクを嫌って、引き上げるかもしれません。ただ中国は20年前と違い、多くの産業では国産化が可能あるいは奨励しており、外資が逃げ出すことについては、ある程度、想定事実として考えているようです。すでに中国は東南アジア諸国より賃金が上昇しており、生産工場としての価値は下がり、企業は次々と中国から賃金が安く、対日感情のよいタイ、ベトナム、ミャンマーなどに生産処点を移しています。将来的には中国は、世界の工場から、内需を中心とした経済を目指していますが、雇用の喪失、地方経済の混乱など、民主化問題も関わり、色々な問題が横たわっています。

 こういった混乱から民衆の目を逸らす方法が以前あった反日デモのような反日運動です。強制徴用の問題にしても、損害賠償問題で日中がますますエスカレートし、日本企業の引き上げ、反日デモまで発展する可能性があります。そうした場合、前の反日デモの教訓から、民主化運動、民族闘争まで発展する可能性もあり、この手を使うのは頭の痛いところです。

 逆に日本政府が、中国の裏の裏をかき、人道上の観点から中国向けのODAの一部を、強制徴用者に損害賠償資金として出す、補填する方法もあります。国際社会に、日本は平和を愛する国家とアピールする作戦です。これは、他の731部隊、南京事件などの訴訟にも拡大する恐れはありますが、そうすると今度は中国自身の問題点、大躍進、文化大革命、天安門事件による犠牲者の訴訟に繋がりかねません。これは数千万人の問題ですから、絶対にここまで波及することは考えられません。現状では、どちらに転んでも、強制徴用を問題化することは、日中両国にとってあまり意味がなく、しばらく放置することになるでしょう。

 一方、韓国は中国と同じく強制徴用問題を取り上げ、すでに賠償の判決も出ています。ただよく考えれば、両国の立場は全く異なります。韓国は戦前、日本領であり、朝鮮人は日本国籍でした。強制連行にしても、戦前の国家動員法によるもので、日本人、朝鮮人に関わらず、日本国籍の人、すべてに適用されました。さらに朴正煕大統領が締結した日韓基本条約において、日本は個々の補償の代わりとして、国家へまとめて補償金を出しています。中国については、当時の国民党から現在の共産党への継承性については問題がありますが、少なくとも敵対国でした。日中共同声明で、中国は補償の請求権は放棄しましたが、実際に犠牲になった人々の補償という人道的な問題は残ります。ODAが補償金の代わりだというひともいて、内容はそういった意味も強いのですが、あくまでこれは援助金で、補償金ではありません。また日韓の約束は基本条約という正式な国家間の条約ですが、日中の約束は共同声明というやや曖昧なものです。

 新たな日中戦争という危機的な状況は、自衛隊の防衛力とアメリカの対応を検討した結果、現時点では無理と判断され、ほぼ回避されています。それでも危機感を煽ることで、経済の停滞、役人の不正から目を背ける必要もありますし、さじ加減が難しいところです。中国という広大な面積と人口を抱える国家では、その内部の権力闘争と相まって、国家の舵取りは本当に難しいと思います。「アラブの春」のような急激な民主化は、混乱を招くだけで、必ずしもよい結果をもたらすとは言えず、より規模の大きな中国ではゆっくりした民主化が求められます。

3/19
 予想に反して、訴訟を採りあげたようです。外資(日本)からの脱却と内需奨励の姿勢がはっきりしました。可哀想なのは韓国で、歴史問題で完全に中国と歩調を合わせられ、中国への従属化から脱却できなくなってきています。軍事、経済の一体化はさらに進み、昔のような属国化は間近です。

0 件のコメント: