食べることは生きること、生きることは食べること。誰が言ったか忘れたが、この言葉は真実である。老人ホームを経営している人に聞くと、よく食べるひとは元気で、食べなくなると急速に体力がなくなるため、老人ではどれだけたくさんのカロリーをとらせるかが課題となる。うちの親父も88歳で交通事故により亡くなるまで、食欲は旺盛で、最後まで大振りのご飯茶碗で食事をしていた。さすがに足腰は次第にいうことはきかなくなっても、栄養が十分にとれていると、元気である。
老人ホームの人たちにとっては、三度の食事が何よりも楽しみとなる。食事がまずいと入居者からクレームがつくだけでなく、十分な栄養補給ができないため、大きな問題となる。そのため、どの施設も腕のよい料理人の確保が大事となる。腕がよい料理人にかかると安い材料費でもおいしい料理を作る。入居者がおいしい、おいしいといってたくさん食べ、栄養が足りた状態こそ、最も望ましい。
テレビ、雑誌、本ではもっぱらダイエットばかりが、取り上げられる。これはあくまで若者から中年の世代の話で、栄養過多が肥満、高血圧、糖尿病等の原因となるためダイエットが勧められるが、老人の栄養不良について取り上げられることは少ない。死ぬまで、自分の口、歯でおいしく食事をすることが、快適な人生を全うするのに必要不可欠なものと考えられる。そのためには、まず自分の歯を無くさないこと、歯が喪失したなら早めに歯科の治療を受けること、さらには口を刺激して唾液をしっかり出すことが必要となる。とりわけ老人になり、食欲がなくなる原因として唾液の減少が挙げられる。
唾液腺は舌、頬や口唇などのあり、年齢に伴い、少しずつ退化し、萎縮していく。老人になると若い時の唾液量の半分くらいになる。さらに一部の薬、血圧、うつ、心臓病の薬には唾液を減らす副作用をもつ。唾液が減ってくると、義歯の場合、ちょっとしたことで歯茎に傷がついて、痛くて咬めなくなる。また物を食べるというのは、咬むー混ぜるー飲み込むの順番となるが、このうち歯があっても混ぜるが難しくなる。今後は、薬品開発においても唾液への副作用のないものが求められる。
宮崎にいた時に、大きな病院でバイトをしていたことがある。暇な時はいろいろな病室を訪れて歯科治療が必要ないか、聞いて回った。ある病室に行った時のことである。大きな病室で10人以上の患者がすべてベットに寝ており、おむつをつけ、胃瘻により栄養補充がとられていた。テレビ、ラジオなども一切なく、ただじっと寝ている。まるで死体置き場のようで、さすがにびびってすぐに退室した。これでは半分死んだも同然である。最後まで口から食事をとりたいものである。
最近は、食の重要性への関心が高くなってきた。一時は誤飲性肺炎を恐れて、胃瘻を勧める施設も多くあったが、その結果、肺炎は減っても生きる意欲がなくなるため、最近ではできるだけ口から食べるということが推奨されてきた。ただ誤飲しないように食べさせるためには、食品の硬さや形状を個人ごとに変える必要もあるし、介護人が食事中、かかりっきりとなるため、大変手間がかかる。それでも口で食べ始めると途端に活力がでるから不思議である。
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