今日のDMで再び、ドイツのA社のCTスキャンのパンフレットが入っていた。これまで何度か、このブログでも被ばく線量に無頓着なこのA社について、世界的な医療放射線のガイドラインを無視した広告に腹を立てていたが、一向にその態度に改善はなく、逆にますます助長している。このA社とはカボ社のことで、ドイツを代表する歯科メーカーであり、その製品は日本でも定評がある。カボ社の歯科用ユニットは、歯科界では車のベンツのような存在で、昔からあこがれの的の製品であった。ただ最近は、使用者に聞くと、故障が多く、修理費も高いという声もあり、一時ほどカリスマ性、ブランド力は落ちた気がする。
カボ社のCTスキャンも、セファロをワンショットで撮れない、すなわちデジタルセファロに比べてCCDが小さいということを除けば、最高の機種であり、被ばく線量についても、他機種に比べて低いことは間違いないし、デジタルパントモだけで言えばプランメカ社のものが優れているが、CTとしてのソフトも含めると、総合力は高い。それでも、敢えて言うとカボデンタルシステムジャパンの宣伝方向は間違っている。CTは1000-2000万円する高額なもので、インプラントを多くする歯科医院にはある程度、導入されてきた。これ以上の販売が難しい、新たな販路としてターゲントとしたのが、矯正歯科である。私のところでも、検査のためのレントゲン検査の頻度はかなり高い。それ故、高額な製品であっても、患者の治療に大きく貢献できるなら、購入も検討するところである。多くの先生もそうである。その一方、一番ひっかかるのは被爆線量のことで、子供の治療の多い矯正歯科では、子供へのCT撮影はためらわれる。
カボ 3D eXamのパンフレットには、今後のCT画像活用の可能性として知人の梅原先生の顎運動との連動を挙げている。これについては、日本歯科医学会誌(33号、2014)の「近未来の歯科医療を語るーデジタルデンティストリー時代に向けてー」の中で、鶴見大学の小林肇先生が「一部の先生の中にはCTでセファロの代替をしようという考えの方がいらっしゃると思います。これは絶対に許されないと思います。いいますのは、セファロは1枚撮影の被爆線量は、だいたい5-10マイクロシーベルトです。CTはあの大きさで撮ったとすると、かなり少なくとも50以上です。100近い、もっと広くなるかもしれません。1回あたり数十倍の線量を成長発育期の子どもたちに被爆されるのはどうか。セファロではどうしても測定できない症例について、例えば顔面に変形があるとか、アシンメトリーがあるとか、そういったものはいいと思うのですが、通常の成長発育をしている方に対してそれを行うというのは、正当化されないだろうと思います」、さらにCT画像を顎運動に連動させることについては、「梅原先生のを見せていただいて、一つだけお願いしておかなくてはいけないことがあります。CTはどんな精度を上げていこうとしても、CTの解像度の限界があるのと、解像度を上げると被爆線量が増えますよ。ですからCTで精度を求めていくのはちょっと難しいと思うので、どちらかといえば側方運動とか顎運動のほうは、実際のデジタルアーティキュレーター、実際の咬合器のほうで見ていただいて、咬合のほうはそちらで見ていただくのが本筋ではないかと思います」と極めて常識的な欧米のガイドラインに沿った発言を穏やかに語っている。
またカボ社のパンフレットには、「QuikScan+」モードを使えば、被爆線量はパントモ撮影の約半分で、リスクの高い小児、複数回撮影を行わなければいけない症例のフォローアップなど、より安全に使用できるとしている。そしてその根拠として、「コーンビームCT装置Kavo 3D eXam+の三次元セファロメトリックにおける実効線量」(日本歯科放射線学会 第220回関東地方会、明海大学、原田康雄ほか)の発表を載せている。放射線学会については全く不明であるが、ただ地方会での発表を装置の安全性の根拠として出すのは、かなり問題があると言えよう。少なくとも査読のある学会誌、できれば被爆線量のうるさい欧米の学会で発表し、それを英文の論文にしたものを根拠にすべきである。明海大の先生のコメントとしては、「2次元パノラマ画像と同等の撮影領域を,同程度かそれ以下の実効線量で3次元CT画像を取得できることは画期的。しかしながら撮影条件によっては10数倍の実効線量となる場合もあった。医療被ばくを低減させるための機械装置の選定はもちろんのこと,診断目的に適した撮影条件を選択することは,患者防護の最適化の観点から臨床家に取って非常に大切である」とより厳格な患者線量管理の重要性も指摘している。
日本では人口当たりのCTの台数がアメリカの2倍あり、安易なCT撮影による被爆線量増加が危惧され、最近、日本医学放射線学会はじめ、関係学会が線量指標を発表した。この「最新の国内実体調査結果に基づく診断参考レベルの設定」(平成27年6月)では、歯科については活用の多い口内法X線撮影について書かれているが、歯科用CT撮影については直接書かれておらず、早期に指標を出してほしいところである。臨床医は常に解像度の高い画像を求めるもので、いくら被爆線量は低くなると言っても(QuikScan)、こういった解像度の低い条件では撮らず、むしろ必要以上に高い線量を用いることは、デジタルパントモの調査でも判明している。すなわち理論上、デジタルパントモはフィルムに比べて半分程度の線量でいいはずだが、実際の歯科医院での線量を調べると、多くの診療所での実際の線量はフィルムより線量が高かった.同様なことをCTでも言えることで、高い費用で買った機械なので必要以上に使い、さらにより詳細にみたいので、高解像度をねらうことは臨床医としてはよくわかる。そうした問題があるため、学会では安易な使用を制限しているのに、一方でメーカーが従来のパントモ写真の半分の被爆線量として売り出すことは、企業倫理としてはどうかと思える。
私自身、放射線については原発賛成という意見の持ち主で、それほど被爆線量には敏感ではないが、こうした宣伝文句(パントモの半分の被爆線量)がいつのまにか、一人歩きし、HPや患者説明にも用いられ、結果的にはヨーロッパのガイドラインを無視したかたちで、子どもから大人まで、すべての患者に撮影されることを危惧するし、実際にその可能性は高い。こういった広告内容が、ドイツのカボ本社の承認を得ているか不明であるが、もしカボデンタルシステムジャパンの独断のものであれば、カボ社のようなグローバル企業にとっては、企業文化、ブランドの共有化という点では大きな問題となろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿