上図を見れば、南沙、西沙諸島は中国にとって重要な地域であることがわかる。海外から輸入、海外への輸入のほとんどはこの地域を介して、中国に通じる。現在、中国政府は陸路によるヨーロッパまでの横断を進めているが、物資輸送について海路の重要性は変わらない。今日、マルクス・レーニン主義を宣言する社会主義国家は、中国、ベトナム、北朝鮮、ラオス、キューバしかなく、南沙、西沙諸島を取り巻く国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイでも、ベトナムが唯一の社会主義国だが、その関係は最悪で、戦争もした仲である。そうした意味では、周囲すべての国と敵対していることになる。
そのため経済発展を継続させるためには、こうした地域のシーレーンの確保は日本以上に重要であり、ここを閉鎖されると影響は甚大となる。日本の場合はフィリッピンの東を通る海路がある。そのため、ベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾による1970年代からの埋め立てによる飛行場の造成に脅威を感じたのはうなずける。特にベトナムは人工島の埋め立て、大規模な飛行場を造成しており、対抗手段として今回の行動をとっている。
前回のブログでも紹介した軍事研究の文谷論文では、中国のこうした人工島およびそこの飛行場は、攻撃に対して非常に脆弱なことを指摘している。ことに南沙諸島は一番近い、海南島の基地からも1000km近くあり、飛行機の行動範囲を越えているのに対して、フィリッピンの米軍基地からの距離は近く、人口島では、空爆から燃料、爆弾、飛行機を守る施設が造れないため、陸上あるいは海上からのミサイル攻撃で簡単に殲滅できる。ほぼ一方的な攻撃で終了してしまう。現在、中国海軍は正規空母2隻を建造して、海南島に配備すると思われるが、航空哨戒が十分にできなければ、潜水艦からの攻撃が怖くて活動できない。こうしたこともあり、アメリカ政府も中国の南沙諸島への進出は脅威でないと判断して放っていたが、さすがに周辺国からの要請で、ようやく米海軍の駆逐艦を派遣した。米軍の目的は、主として偵察で、人工島の施設配備、配置を押さえておけば、いざという時に攻撃は容易である。中国政府からすれば、こうした偵察行動はいやなもので、そのため十二カイリ以内の接近に対して強く抗議しているが、国際法ではこうした制限はできず、また中国軍の航空機による米国の偵察機を監視するのも難しい。米軍はフィリピンの基地から簡単に偵察にいけるが、それに対してスクランブをかけるためには、海南島からは無理なので、人工島基地からの発進となる。高価な迎撃戦闘機を配置し、常時、24時間、スクランブ可能な状態にしておくことは難しく、台風などによる高潮の被害や、塩害による機体、エンジンの損傷もあろう。太平洋戦争におけるガダルカナル島攻防、ラバウル基地からの日本軍の零戦の出撃と同じように、本格的な基地のある海南島から1000km離れた、平島の人工島を維持することは、例え空母を保有して、南シナ海に進出してきても、空と海の哨戒が十分でなければ危険であり、フィリピンに米軍基地があるかぎり、人工島は全く無意味な存在となる。フィリピンから南沙諸島までは200kmくらいで、米軍およびフィリッピン軍が、頻回な偵察を繰り返すことで、中国軍の消耗を招き、突発的な衝突があった場合、米軍は空母の出撃および南沙諸島の攻撃、さらには同海域の封鎖をすれば、中国のシーレーンが完全に遮断され、ひいては共産党の崩壊につながりかねない。いくらチキンレースといえども、ここまでのリスクは犯せないが、かといって前の台湾でのミサイル騒動での米空母出動と同様な臆病な態度は現状ではこれまた国民感情が許さない。アメリカ軍では空母に対する攻撃は即戦争と自動的にされるために、最終的にはアメリカの空母の進出が同海域の最大のカギとなる。
南沙諸島については、シーレーンの観点からすれば、ベトナム、フィリピン、マレーシアなど周辺国は全く影響がなく、中国の唱える九段線の外を通って運搬ができ、さらに資源開発の点からは、2012年にフィリピンは南沙諸島の石油、天然ガスの開発計画を立て、シェルやGDFスエズなど中国企業を除いた15社が公募した。投資総額が75億ドルの大規模事業であり、その背後には当然米軍の後ろ盾がある。こうした点から見れば、日本が南沙諸島の問題に関与する必然性はほとんどなく、傍観すべき事案である。決してアメリカ軍に関与する必要はなく、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムなど周辺諸国も決して善人ではない。
3 件のコメント:
>傍観すべき事案である。決してアメリカ軍に関与する必要はなく
今回のアメリカの「航行の自由作戦」に呼応するために、日本は9月に急いで安保法案を可決成立→堂々と後方支援可能・・・というがシナリオ。
まぁ、アメリカが欲しいのは、他国からの軍事的協力よりも国際世論です。
アメリカ単独ではなく、多国籍軍で軍事行動をとっている・・・という大義名分です。
ですから、「傍観」は、アメリカから見れば敵対行為であり、
「日本の立場としては、傍観はありえない!」というのが一般的だと思いますよ。
別に中国に肩を持つわけではありませんが、フィリピンもコソボ紛争のどさくさにまぎれて、中国から第二トーマス礁を奪っています。ベトナムもそうですが、どっちもどっちで、海上資源の利権を巡って周辺国の領土紛争になっています。こうした領土問題に直接に関係のない我が国が関わるのは、どうかなあという論理です。
傍観というのは、政治的なポーズは見せつつ、軍事的な深入りはしないという意味です。
>こうした領土問題に直接に関係のない我が国が関わるのは、どうかなあという論理です。
今回のアメリカの軍事行動は、
日米合同による、かなり以前から綿密に計画された「中国の孤立化・中国潰し」です。
そのため、安倍首相はいち早くは「航行の自由作戦」の支持を表明しています。
アメリカは、ウクライナ問題についてロシアに譲歩し、ロシアにシリア・イスラム国問題を押しつけて、
原子力空母セオドア・ルーズベルトをペルシャ湾から南シナ海に移動している事からも、
アメリカは相当本気です。
(今回のイスラム国によるロシア民間機爆破も、そうした経緯から起きたと思われますが、本題からそれるので今回は省きます。)
カーター国防長官は、上院軍事委員会の公聴会で「今後、数週間から数カ月にわたって作戦を継続する」と言っています。
これは、米国は数カ月どころか数年間、もしかしたらそれ以上の長期にわたって作戦を継続する覚悟を決めているということです。
アメリカは、目的達成まで絶対に引かないわけで、
現在、アメリカはあらゆる手段を用いて中国にプレッシャーをかけているところです。
これに対し、中国には対抗策は0です。
なぜ、アメリカがいつになく強行かと言えば、
南シナ海は、世界の貿易船の四分の一が通過する「海上交通の要衝」
原油は一日平均約1400万バレル、世界の原油輸送量の約三分の一が通過しています。
加えて、「軍事戦略上の要衝」でもあるわけです。
更に、
中国が提唱するAIIB(アジアインフラ投資銀行)潰しです。
親米であるはずのヨーロッパ諸国があいついで、AIIB参加を表明したことも、アメリカが「中国潰し」に本気になったもう一つの原因。
アメリカは、早速、中国に急接近したドイツに対し
米環境保護局(EPA)が、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)によるディーゼル車の排ガス不正問題を持ち出し、更に、新たな調査でポルシェやアウディなどにも不正問題が及んでいます。
というわけで、
アメリカは何が何でも自分が世界の盟主であることを、世界に見せつけないといけないわけです。
本質は「小さな人工島とその領有権だけの問題」ではないんですね。
これらの問題に関して、日本はアメリカと国益が一致しているわけで、日本は、傍観ではなく、軍事的にはさておき、政治的にはアメリカ支持が当然なのです。
今月2日に行われた日韓首脳会議でも、安倍晋三首相は韓国・朴槿恵(パク・クネ)大統領との会談で、
「日本は「『航行の自由作戦』について、国際法に合致しており、直ちに支持した」ことを伝え、
「韓国も『航行の自由作戦』を支持するように!」と圧力をかけています。
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