一般歯科向けの専門雑誌としては「歯界展望」と「クインテッセンス」が有名で読者も多い。矯正歯科だけではなく、一般歯科の知識も吸収しなくてはと、開業当初は歯界展望を、ここ15年はクインテッセンスを毎月、購入して読んでいる。どちらかというとクインテッセンスの方が、アメリカ指向の強い若手の歯科医が好む雑誌である。
当然、ほとんどの症例は、自費のもので、保険で治療したケースは少ない。いわゆる金に糸目をつけずに治したというケースである。さすがに費用は書いていないが、おそらく数百万円の治療も珍しくないであろう。歯科の場合は、医療といいながら、高額な治療=いい治療と考えられる不思議な科である。確かにアメリカではすべての科で、優れた医師に診察あるいは、手術を受けるには莫大な費用が必要となる。一方、国民皆保険の日本では基本的にはどのような名医に治療をうけても費用は同じとなるし、いくら費用をかかってもといわれても、病室がよくなるくらいで、診療そのものは変わらない。一方、歯科では一応、保険制度によりカバーされているとは言いながら、自費治療も並行して存在し、クインテッセンスに載るような症例は、自費診療のケースとなる。
クインテッセンスの症例を見ていると、一言でいうと、過剰診療が多い。例えば、“右の上の奥歯が痛い、アゴがたまに痛くなる”という主訴でも、その歯の治療はもちろんのころ、まずスプリントを入れて顎位を決め、そこに咬むように矯正治療を行い、補綴物、抜髄歯はすべてやりかえる。患者は十分に納得して治療してもらっていると思うが、中には途中で治療を辞められず、ズルズルと治療を進めていったケースもあるだろう。主訴でないところの治療をしているケースが非常に多い。一方、自分が得意でない分野、例えば矯正治療がからむケースでは、“矯正治療の説明をしても希望しなかった”と説明する。先月の症例でも、明らかな骨格性の反対咬合、手術が必要なケースだが、そこの治療は希望しないとそのままにしておいて、歯茎の下のう蝕を治すために小臼歯を挺出させて治療している。あごの大きなずれ、不正咬合の改善は患者が希望しなかったが、小臼歯の縁下カリエスの治療は希望したとのことか。自分のところで矯正治療をしていないのであれば、一応専門医の意見を聞いた方がよいと、矯正専門医への紹介が最初であろう。紹介先の矯正医では、手術を併用した治療法と費用(保険適用で安い)に説明すると、多くの場合は治療を希望する。治療法によっては、小臼歯を抜歯する場合もあるし、あるいは挺出して治療する場合も術前矯正の中でできる。つまり一番大きな問題点をまず治療する、あるいは検討した上で、縁下カリエスの治療など考えるべきであろう。
通常の医療では、当たり前であるが、問題がなければ治さない。しかし、歯科では問題がなくても“不良補綴物”、“不良根充”と診断され、再治療となる。極論すれば、ある歯科医ですべて治してもらって、違う歯科医院に行くと、すべて不良補綴物と診断され、再治療となることもある。これは矯正治療でもそうだが、形態が主要な治療目的となっているため、レントゲン、あるいは視診でそこの歯科医が問題と感ずればすべて治療が必要と言われる。これは医療としてはおかしなことで、問題があっても症状が全くなければ、治療の必要はない。こういうと歯科医の中には、将来的に確実に悪くなると思う歯は症状がなくても治療すべきだと言うだろう。ただその根拠は、例えば、不良根充歯の再治療がその歯の予後の延長につながるかといった研究はないし、あったとしてもあくまで平均値あるいは術者による。予後が悪いという言葉は、あくまで長い経験の上から言えるものだが、臨床経験10年くらいの先生が平気でこうしたことを言う。40年以上全く問題ない歯でも平気でケチをつけ、再治療を勧める。自分の治療が40年保つと言い切れるのであろうか。
歯科医から症状もない歯を治すと言われたら、“どうして治す必要があるのですか”と聞くことを勧める。“放っておくと抜かなくてはいけなくなる、予後が悪い”というだろう。そうしたら“類似症例で先生の治療で最も長い予後のケースをみせてほしい”と言おう。若い先生から、ここで難しい患者と思われ、それ以上何もいわないだろう。実際、根拠はほとんどないし、むしろベテランの先生になるほど、より保守的な治療を選択するようで、全部の歯を一度に治すようなことはしない。学問的な根拠はなくても長年の経験から保守的な治療法、必要な箇所しか治療しないで様子をみるのがよいと知っているからだ。
生体を扱う医療は保守的におこなうべきであり、クインテッセスの一部の症例のような、いかにもこんなすごい治療をしましたという歯科医は、大掛かりな治療介入、費用も含めて、果たしてよかったのかと、もっと謙虚に考えるべきであろう。極論であるが、処置しているすべての歯の再治療を求められたら、拒否し、他の歯科医院にも当たるべきである。ましてはそのコストが100万円以上の費用がかかる場合は、安易に決める必要は全くない。
0 件のコメント:
コメントを投稿