2017年12月10日日曜日

金合金のインレー


 右下の奥歯(第一大臼歯)のインレーがはずれた。数年前にも一度、脱落し、二次カリエスがなかったので、そのままセメントで合着した。今度も、特に二次カリエスがないので、そのまま合着した。歯科医の息子なのに恥ずかしいことだが、下の右第一、第二大臼歯は金インレー、左の第一大臼歯は金インレー、第二大臼歯はアマルガム充填、上の左第一大臼歯は金のクラウンである。下の左第二大臼歯はC1程度の小さなカリエスだったが、学生相互実習でアマルガムを充填した。

 一番新しい歯科治療は、下の左第一大臼歯の金インレーで10年ほど前に古い金インレーが脱離し、一部歯質も欠けていたので、知人に頼んで治療してもらった。それ以外の歯は、アマルガム充填が23歳のころだから、38年、他のインレーは小学生か中学生のころに親父に治療してもらった歯なので、すでに50年近くなる。形成もそれほどよくないし、インレーそのもののできもよくない。ただ当時は、直接法といって、形成後、直接、柔らかくしたワックスを口に入れ、口の中で形態を作り、スプール線をさし、そのまま埋没して、インレーを作った。印象という手間を省いたので精度はよい。さらに金合金なので、試適時に十分に擦り合わせをすれば、数ミクロン単位での辺縁封鎖が可能である。

 金合金はあらゆる歯科材料の中で最もよいと言われるのは、こうした経験則から証明できる。私の場合、家が歯科医だったせいか、ほとんどの歯科治療は金合金で行ったが、その結果は50年近くの耐久性を示しているし、今後さらに持つことだろう。こうしたことはたまたまなのかもしれないが、それでも年配の方の口腔内をみても金合金の耐久性は非常に高い。さらに金合金のインレーやクラウンのよい点は素材が柔らかいので咬合に合わせて削れる点である。原始人、オーストラリア、アボリ人にみるまでもなく、人にとって咬耗というのは加齢に伴い必ず起こるものである。急激な咬耗は問題あるが、ゆっくりした咬耗は口の老化にとって必要なことである。一方、セラミックを使った補綴物は、審美性は高いものの、歯より硬い材質があり、咬耗もほとんどない。そのため、かみ合わせの細かい調整に対応できず、咬みにくい、音がするといった問題も生じる。さらに辺縁封鎖性については金合金とは比較にならず。展延性が全くないため、必ず隙間ができる。おそらくは金合金ほどの耐久性はないと思われる。私の口にあるような50年以上のセラミックインレー、クラウンは、おそらく少ないであろう。破折あるいは二次カリエスなどでダメになっていることだろう。
 
 結論からすれば、審美性のあまり要求しない大臼歯部の補綴物は耐久性、親和性からも金合金を使ったインレー、クラウンが最も優れた治療法と言える。先日もクインテッセンスの症例報告で、62歳の女性の治療ケースが載っていたが、大臼歯部の金インレー、クラウンはすべて不良補綴物として撤去され、セラミックのものに変えられていた。患者が“見た目のきれいなの”と希望したと答えるだろうが、本当にそうか。たぶん“この被せものは何十年も経っているの、この際、最新型のきれいなものにかえたら”と言われたのだろう。失礼だが、62歳のおばさんが見えないところにある大臼歯の審美性を主治医に依頼したようには思えない。


 万が一、歯科医院で大臼歯の補綴治療を勧められたら、第一候補は金合金の補綴ということは歯科における常識であり、歯の耐久性を考えればセラミックによる補綴はありえない。これは私の患者としての経験であり、もしセラミックを勧める歯科医がいたら、その先生に“先生は自分の虫歯の治療をすべてセラミックでしているのですか”あるいは“金合金より審美性以外でセラミックが優れている利点を教えてください”と質問してほしい。案外、歯科医をしていても自分の歯にはセラミックではなく、金合金のインレーを入れている場合も多い。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

前日、自作した金のクラウンを某クリニックでセットして頂いた者(65歳)です。25歳まで32本の健康天然歯の自慢でしたが、精神的に落ち込んでいた頃からか気をつけていたのですが、カリエスが少しづつ発症しました。20歳ころは、歯学部の教室で100パーセント天然歯として、咀嚼筋電図モデルをしたことがあります。私の人生の間には齲蝕は、少しずつ現れては治療し、白い歯科材料で再建して来ましたが、広瀬院長と同じく二次カリエスなど、耐久性が完全ではなく、金インレーがことのほか耐久度が高いと実感しておりました。偶然このページを見て納得した支台(学習変換ミス(次第))です。(歯職人)

広瀬寿秀 さんのコメント...

東京の歯科医院では、すぐに白い歯にと勧められるようですが、二次カリエスの発症機序から、その防止には軟象除去を完璧に行い、歯質の支持を十分にとり、そして辺縁封鎖をきちんとすることです。セラミックに比べると金合金は、細い複雑な窩洞でも折れることはなく、展延性が高いため、臼歯部の補綴、とくにインレーとしては、耐久性、機能性でもセラミックより優れています。
今は全く存在していませんが、金箔充填は、アマルガムやレジン充填より優れていますが、技法は途絶えました。
私の口に入っているゴールドインレー3本とクラウン1本はすでに50年近くたっていますが、内の家内のセラミッククラウン、インレーは10年くらいで破折しました。その都度、再治療をしますが、だんだん切削量が増え、次は抜歯になるでしょう。補綴物の一般的な流れでは、充填ーインレークラウンーブリッジ(抜歯)、インプラントとなりますが、ゴールドインレーやクラウンの方が、セラミックより次に行く危険性は減らせると思います。それ故、歯科関係者は患者には臼歯部セラミックを勧めますが、自分の口にはゴールドを入れている方も多いと思います、