2018年9月11日火曜日

矯正治療の失敗

開咬

側方への開咬


 長年、矯正歯科をやっていると、正直なところすべての治療がうまくいったとは言えません。感覚的には非常にうまくいった症例が20%、まあまあと思うと症例が60%、あまりうまくいかない症例が20%くらいです。矯正専門医の多くの先生も同意見と思います。もちろんあまりうまくいかない症例といっても患者さんや一般歯科医からは特に問題はないと思われるかもしれませんが。具体的な例で言えば、咬合が甘い症例です。反対咬合で来院した患者さんで、反対咬合のまま治療終了することは決してありませんし、叢生(でこぼこ)に患者さんもでこぼこのまま終了することはありません。ただ上顎前突の症例で前歯の出っ歯が残ることや開咬(前歯が開いている)の患者さんで前歯がまた開いてくることがうまくいかない症例となります。この原因として3つのことが考えられます。多い順で

1.      舌機能による後戻り
 舌の機能は複雑で、開咬など舌の機能が関連する不正咬合では、舌の習癖、例えばつばを飲み込む時に舌を前に出す(舌突出癖)が悪さをします。ワイヤーやゴムなどできれいに咬ましても舌癖により再び前歯が開くことがあります。こうした不正咬合では治療がなかなかうまくいきません。またこれ以上に多いには側方への舌突出癖です。小臼歯部はかなり気をつけて咬ましますが、咬合力が弱い人や側方への舌突出癖があるとそこが咬まなくなってきます。経験上、右のかみ合わせが甘くなります。

2.      診断の間違い
 重度の上顎前突(出っ歯)の症例では、いつもアゴを前に出しているために、前で咬む癖が固定している症例があります。こうした症例ではもともと出っ歯の程度が悪く、装置を入れてでこぼこを取っていると、下あごがどんどん下がっていくことがあります。5mm以上、下あごの位置が下がる症例もあり、こうした症例では外科的矯正の適用となります。反対咬合ではこうしたことはありませんが、上顎前突では下あごが下がる症例がマレにあり、治療途中で手術を勧めても拒否され、結果的に出っ歯が残ることがあります。治療前にスプリントなどで顎位を探ればいいのでしょうが。

3.      患者の非協力
 治療の過程で、患者さんにゴムの装着などをしてもらうことがあります。指示通りにしていただければ、きちんと治るのですが、なかなかゴムを使ってくれないことがあります。この場合は、治療がうまくいきません。また歯磨きをきちんとしてもらえず、むし歯がたくさんできる場合も治療途中で終了あるいは中断することがあります。経験上、中学生の男子ではこうしたことがあるので、中学生以上では本人が治療を希望しない場合は、矯正治療を開始しません。また治療が終了しても保定装置を使ってくれないと後戻りが起こります。

4、 手術のミス
 外科的矯正の症例では、これは矯正歯科医のミスではありませんが、外科手術が計画したように行われないことがあります。術前矯正で、例えば、右10mm、左5mm、下あごを後ろに下げるように手術を依頼したとしましょう。もちろんスプリントと呼ばれる位置決め用のプラスティックのマウスピースのようなもの作り、そこで下あごを固定してもらいます。ただ切り離した下あごをチタンプレートで固定する際の位置決めが非常に難しく、下あごを引っぱって固定すると、当初の計画とは全く違ったかみ合わせになります。右が8mm、左が4mmの移動量では全く噛み合ないことになります。術後矯正で何とか咬ませるようにしていきますが、計画とのずれが大きい場合は結果的にはきちんと治せないことになります。

 おそらくどのような名医でも、うまくいかない割合は同じようなものと思います。ただこれはあくまで主観的なものなので、名医から見れば、一般医の治療結果は10%がまあまあで90%が上手くいっていないと見るのでしょうし、自分の昔の症例をみても同じように考えるのでしょう。こうした点では、あくまで治療結果のみの判断ですが、日本矯正歯科学会の専門医試験の審査をお手伝いしたことで、客観的な判断ができるようになった気がします。他人の症例を審査することで、自分の症例を客観的に評価できます。そうした意味では他人に自分の症例を見ることや転医なども、いい勉強になります。





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