2019年1月18日金曜日

弘前新美術館

弘前犬もできれば外での展示を願います

旧タケウチ自転車店

 弘前市の市政で、個人的に最も期待しているのは、弘前市吉野町のレンガ倉庫にできる弘前市芸術文化施設(弘前アートセンター)である。設計は現代日本人建築家で最も注目されている田根剛さんで、国内では少ない彼の作品となる。弘前では名建築家、前川國男さんの設計した建物が5軒ほどあるが、それに田根さんの建築がつけ加わることになる。2020年の春ころに開館となる予定であるが、建物については具体的な予想図があり、実際にレンガ倉庫でも工事が始まっている。ところが内容については市、博物館の人に聞いてもあまり知らない。というのも、建築と運営に関しては、「弘前芸術創造」という集団が行うことになっており、弘前市はこの事業体にほぼ丸投げに近い。

 この事業体は平出和也という人が代表で、スターツコーポレーション、大林組、NTTファシリティーズ、エヌ・アンド・エーなど8社の共同出資となっている。このうち大林組は美術館本体の建築を担当することは理解できるし、NTTファシリティーズが省エネ、エコの美術館に関係することはわかる。またスターツコーポレーションについては、知られた会社ではないが、インターネットで調べると不動産、管理、セキュリティーで実績のある会社であり、弘前芸術創造の代表の平出和也氏はこのスターツコーポレーションの役員である。エヌ・アンド・エー(N&ANanjo Associates)という会社は、HPで見ると、芸術文化施設の企画、運営、マネージメントをしている会社で、十和田市現代美術館の創設、運営に関わっていて、特に現代美術では多くの企画に関わっている。代表取締役は南條史生氏であり、同時に弘前市芸術文化施設の総合アドバイサーでもある。つまり「弘前芸術創造」の中でも実際の展覧会や作品集めなどの運営の主体となるのはN&Aである。
 現在の美術館運営は非常に難しく、多くの入場者を集めるためには高度なノウハウが必要であり、ましてや台湾や中国からの観光客の誘致にも関与するとなると、ユニークな企画が必要となる。なかなか市町村程度の職員ではそうしたノウハウはなく、N&Aのような専門集団に任せるのはわかる。ただ総合アドバイサー=運営主体となると、全く南條氏の個人的なものとなり、弘前市の独自性をどこまで追求できるか疑問である。特に契約主体の弘前市に芸術に関する専門家がいないと南條氏の専門集団、会社のいいなりとなる。例えば、現代作家の作品購入において、最終的には弘前市の承認が必要としても、作品の選択、価格は南條氏が決めることになり、弘前市に専門家がいないとそのまま通すしかない。弘前市芸術文化施設のメイン展示物は、弘前市出身の奈良美智さんの作品であり、彼の大型展示物が常設の中心になるだろう。これは過去にレンガ倉庫で行われた伝説的な“A to Z”などの個展の再現であり、誰がこの個展を作ったかというと、奈良美智さんであり、grafであり、そして弘前市民であった。であるなら、新しい美術館もこの制作集団を活用したらどうだろう。現代絵画はおそろしく高騰しており、今では世界中の金持ちの投資対象となっていて、そうした意味では弘前市芸術文化施設では、限られた作品収集の予算ではたいしたものは買えないし、その必要もない。もちろん評価の定まらない若手の作品を買う冒険も必要ない。むしろ転売が難しく投機商品になりにくいあおもり犬のような大型展示作品を中心にすべきであり、そうなると20204月に開館となると、すでに遅いかもしれないが、奈良美智さんとの話し合いも必要であろう。

 アメリカの多くの美術館は、市民の寄付によって成り立ち、図書館とともに市の文化的な象徴となっており、美術館の理事となることは名士となる証である。おらが町の美術館ということである。弘前市芸術文化施設もその運営を全て東京の会社に任せるのはどうかと思う。少なくとも地元愛を持つ芸術の専門家を弘前市としては任命すべきであり、佐野ぬいさんやA to Zの主催者、あるいは奈良美智さんもいる。残された時間は少ないが、今のままでは地元の美術館としての市民の支持は少ないように思える。せっかく弘前に美術館ができるのであれば、市民に愛されるべきものであるべきで、そのためには開館の前段階から市民の参加が求められる。また弘前博物館との連携は今のところ全くない。おそらく南條氏は博物館とは関係ない独立した美術館を作るつもりで、そうであれば話し合い価値もないと考えているのだろう。ただ弘前博物館には、地元出身画家の作品所蔵しており、限られた予算の中で有効な活用が必要であろう。さらに言うなら、近年、日本美術は欧米では現代美術として再脚光を浴びており、博物館の古い作品も新美術館で活用できる。

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