2019年4月12日金曜日

顎変形症患者に対する考えの違い



 アゴの前後、上下、左右のズレがある場合、診断名としては骨格性という言葉がつきます。例えば、噛み合わせが逆の反対咬合という不正咬合でも、上の歯が中に入り、下の歯が前に出ている歯性の反対咬合と、上アゴが小さい、逆に下アゴが大きい、骨格性反対咬合があります。同様に上顎前突や開咬などにも骨格性のものがあります。また顔の正面から見て、下アゴが左右にズレている、あるいは上下のアゴが斜めになっている顔面非対象の症例もこれに入ります。

 こうした上下のアゴに問題のある骨格性不正咬合の治療としては、アゴのズレはそのままにしておいて、骨の上に乗っている歯の移動により噛み合わせを改善する代償的改善法と、手術によってアゴそのものを移動する外科的矯正治療方があります。もちろんアゴのズレの程度により代償的改善法にするか、外科的改善法にするかが決まるのですが、かなり多くのボーダラインケースがあります。

 このボーダラインケースの取り扱いが矯正歯科医により異なります。これは教育を受けた大学あるいは先生によって違うのですが、マルチブラケット装置による歯の移動を主体とする先生では、どちらかというと手術ができるだけ避けようと考えます。例えば、骨格性反対咬合の場合でも、アゴのズレが相当大きな場合以外は、一般的な矯正治療のみを考えます。よほどアゴのズレが大きくなければ、手術をしないのです。一方、アゴのズレがあり、歯の移動ではかなり無理がかかると考え、すぐに手術を勧める先生もいます。両者の考えは矯正歯科医でもかなり違い、学会報告でも、手術が嫌いな先生がアゴのズレがひどいケースを何とか矯正治療だけで治してきます。自信満々で学会に出しますが、手術の好きな先生は必ず、“なぜこうしたケースで手術を併用しないのですか”と質問します。この場合の答えは決まって“患者さんが手術を希望されなかったので、歯の移動で治しました”と答えますが、実際に転医してきた患者さんに聞くと、こうした矯正歯科医院では手術の説明はないようです。

 確かに手術によるデミリット、顎関節症、知覚麻痺、全身麻酔による重篤な障害などを強調すれば、誰も手術を希望する人はいません。一方、成人患者の多くは歯並びの改善だけでなく、顔貌の改善を希望している人も多く、たとえ歯の移動により噛み合わせがある程度改善されても、顔貌が改善されないと満足しないことが多いようです。また手術が嫌いな先生は、歯の移動だけで治らない重篤な症例でも、これはおかしなことですが、アゴの移動をできるだけ少なくしようとします。通常、骨格性反対咬合に場合で言えば、補償作用という力がかかり、上の前歯が前に、逆に下の前歯が中に倒れます。そのため、手術の準備として、多くのケースでは上の前歯を中に、下の前歯を外に動かす必要があり、そのために上の小臼歯を抜くことが多くなります。手術が好きな先生の場合は、理想的な上下関係になるようにアゴを動かした時にしっかりと噛むように術前矯正を行いますが、手術が嫌いな先生は、歯の模型から理想的な歯並びができるように手術します。少しわかりにくいと思いますが、手術の嫌いな先生は、模型をとり、下アゴを動かし、咬む位置まで下アゴを下げるという考え方で、手術の好きな先生はセフォロ写真から決めた移動量、例えば10mm,下げるとすれば、その位置で咬むように術前矯正を行います。そのため、後者に比べて前者では移動量が少なくなり、手術後でも元のイメージが残ります。これも学会で突かれると、“患者のセルフイメージを大切にした”と答えます。個人的には患者さんが顔貌の改善を強く望む場合は、できるだけ移動量を多くしたいと考えますが、手術の嫌いな咬合派は、大臼歯関係はI級関係が理想であると主張し、上の小臼歯のみの抜歯を嫌います。

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