草の描き込みがうまい
10年ほど前よりヤフーオークションにより絵や陶器を買うようになった。当時は、落札後、出品者とメールのやり取りをして、こちらから送金して買っていたが、今はネット上でカード取引ができるため非常に簡単になった。
個人的には、絶対に偽物を買わないようにしているが、それでもオークションに出品されるもの、特に絵には偽物が多いため、かなり気をつけている。まず、1。有名な作家のものは買わない。 偽物作りを考えると、人々に知られる有名作家のものでなければ偽物を作る意味がない。素人にも知られる有名作家の名を出し、高い金額で偽物を売りつける、それが詐欺師のやり方である。それゆえ、誰も知らないような作家の偽物はないか、少ないといえよう。2。入札数の多い作品は避ける。 これも1と同じく、オークションを利用している人々は、有名作家に群がる傾向がある。また近年になって着目される作家に、どうしても入札が多くなる。伊藤若冲などは近年再評価されてきた作家であり、1の意味では偽物が少ないのかもしれないが、再評価を当て込み、同じよう構図の絵に若冲の落款、署名を書き込み可能性がある。3。高い作品は避ける
万が一、偽物をつかまされてもリスクを減らすために、2万円以上のものは買わない。
もちろん、落款や署名は本やネットで確認するが、全く無名の作者のものは比較すべき作品がネット上で公開されていない。私が集めている土屋嶺雪がそれで、初めて買った時、沖縄県立図書館に同じ頃の作品があったため、比較できたが、それ以外の作品は見当たらなかった。今では10点以上の作品を保有し、製作年代もある程度、分かるようになった。もちろんこうした無名作家の偽物は見たことがない。
実は今回、初めて偽物の可能性が高い作品を二点購入した。一点は、芳園の署名の三幅の掛け軸である。芳園はシンシナティー美術館の方と一緒にここ数年、調査している画家である。今回の作品は追ってきた“芳園”のものとは画風が全く異なるし、落款も違うが、それでも署名は似ている。以前、同じような署名のものがあり、その時は題材が僧侶で、欲しくなかったので購入しなかったが、後の写真による調査で、それがこれまでネットで出た唯一の“芳園”の作品であった。こうしたこともあり、今回は偽物の可能性が高いが、一応、ものすごく安い金額(5000円くらい)で落札した。もう一つはたまたまネットサーフィンで見つけた西山翠嶂の作品である。西山翠嶂は文化勲章をもらった大正、昭和の京都画壇の大画家であり、とても本物が予算二万円以内で購入できる画家ではなく、1に反するため買わない。月下秋草図と題されたこの作品は、画面半分に風にそよぐ草を丁寧に書き込み、抜群にうまい。こうした細い線は一発で描くのはすごい技術と手間を要する。ただ落款は事典などに載るものと線の欠けなどが一部一致しないものの、ほぼ同じとみなされるが、署名が微妙に違う。二重箱に入った大型の掛け軸であったが、本物の可能性はどうかなあ。他の入札者もそう感じたのか、価格も上がらず結局、一万五千円くらいで落札できた。実際の絵を見ると工藝印刷ではなく、手書きのとても美しい作品で、この偽物を製作した画家は少なくとも日本画の十分な技術があったのだろう。豪華なもので、偽物であっても十分に楽しめる作品であり、ある意味、こうした巧妙な偽物が世に出ない世の中になったのは嬉しいことである。以前であれば、誰かに文化勲章をもらった偉い作家として高い値段で売っていたであろうし、この絵を見れば数十万円すると言われても納得する出来栄えである。
|
0 件のコメント:
コメントを投稿