2019年10月14日月曜日

奈良美智作品、27億円

27億円で落札されたナイフ・ビハンド・バック
ニューヨークのバーにある落書き


弘前市鍛治町にある居酒屋の落書き


 弘前出身の現代画家、奈良美智の“ナイフ・ビハインド・バック”という作品が今年の香港でのサザビースのオークションで27億円という高値で落札された。つい最近まで、奈良の作品は数億円と言われていただけに、ここ数年の現代絵画の価格上昇は凄まじい。これは世界中の金持ちが投資対象として絵画を選ぶようになったことによる。かってバブル期、日本の会社が世界中の顰蹙をかって高値でゴッホの向日葵などの絵を買った。その後、バブルの崩壊とともにこれらの絵は競売にかけられたが、実際の価格はそのころの数倍になっており、間違った投資どころか賢明な投資出会った。

 それに関連してニューヨークのバーに奈良が描いた落書きが数億円の価値があると、話題になっているが、同様な落書きは弘前市の居酒屋にもあり、ここでは、壁へのプラスティックの保護板もなく、むき出しのまま手で触られたり、タバコの煙にさらされている。まあ、あくまで落書きであり、作品ではないので、これが数億円になることはないが、それでも好きな人からすれば壁画として数百万円であれば買われる可能性がある。ただ個人的に言えば、どちらもあくまで、作者が気まぐれで描いただけなので、そのまま展示し、汚れれば汚れていいし、店を壊すときはそのまま壊して欲しいだろう。逆に居酒屋の壁として店の歴史とともにどんどん汚れていくのこそ本望と思う。

 ただ個人的には、来春に開館する弘前レンガ倉庫美術館に、奈良美智の作品がこれほど高騰するともはや展示できなくなることを心配する。いくら弘前市出身の作家であれ、こうした売れっ子の作家になるとバイヤーが介在するために、たとえ美術館であっても安い値段で売ることはない。弘前レンガ倉庫美術館の作品購入資金は3億円で、これでは奈良の作品、一つ買うのがいっぱいであろう。むしろ転売を禁止した大型作品、体験型の作品など、作者から構想、デザインを買い、その指導を受けて業者が空間を作る方法の方が良かろう。昔のように有名作品を、見物者が一点一点見ていくやり方は、もはや古く、むしろ作者の世界観を体験できるような作品、環境を展示するような方法が望まれる。例えば、松本市にある松本市立美術館は草間彌生の奇妙な芸術を鏡ばかりの部屋や、水玉模様ばかりの部屋で体験できる。こうした体験型の芸術作品は移動が難しく、その美術館に行かなければ見られない。さらに画家にとって、自分との作品を恒久的に見てもらう場として美術館は必要だし、より自分の芸術を訴える手法としては、キャンバスに描かれた作品も重要であるが、大型の移動できない作品もまた興味があろう。

 もちろん、こうした大型の体験型の芸術作品は、作者にとってその構想からデザイン、製作までかなり時間がかかるため、それ相当な費用は必要であろう。問題はそうしたことも含めて来年春に開館が迫っている美術館サイドが、どこまで具体的に奈良と交渉しているかという点である。館長も決まっていない状況で、東京の会社に丸投げ状態、さらにこの会社と奈良との関係など、開館にあたり郷土出身の目玉作家の作品が展示されないような事態は避けたい。かって同じレンガ倉庫で、歴史的な奈良の展覧会が行われただけに、こうした経験が十分に生かされた内容であって欲しい。

 個人的にはこのレンガ倉庫で行われた奈良の最後の展覧会であるA to Zの2階で見たくらい海とそこに浮かぶ人間型の島、あの作品と理科実験室にような空間が忘れがたい経験であった。全国から多くの若者が来るような美術館になって欲しい。

この作品は、何か別の世界に行った気がした。


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