弘前市のかくみ小路に“まわりみち文庫”という小さな本屋が開店した。オーナーは青森市でホテルマンをしていた人で、趣味の読書が高じて、弘前市で小さな本屋を開くことになった。場所は、弘前の人ならわかるが、市内の中心街である土手町から飲み屋街につながる小さな通りで、周囲には太宰治も通ったコーヒ店や美味しい料理店が並ぶところで、本屋がこんなところにあるとは誰も思わない。お店は8畳くらい、周りの壁に新書と古書を半分くらいずつ、おそらく500-1000冊くらいの小さな本屋である。読書家ならこれ以上の書庫を持っている人も多いと思う。
本屋はいかにして儲けているか、知っている人は少ないと思う。一般の新刊は, 委託販売で、出版社、問屋は本屋に委託して本を売ってもらっている。売れなければ余った本は出版社に返して良い。委託販売料は定価などによっても違うが、だいたい20%くらいである。コミック漫画600円で言えば、本屋の儲けはわずか120円、漫画家の印税は10%、60円となる。うちの母親は近所の本屋からボケ防止のために文藝春秋を毎月持ってきてもらっているが、定価が873円、本屋の儲けはその20%で170円くらいにしかならない。配達費を考えれば儲けはほとんどない。
アマゾンは、元々は本の販売がメインであったが、次第に大きくなり、今のような何でも扱う巨大会社となった。これで送料はかかれば、誰も注文しないが、送料がかからないため、近所の本屋に行く必要が全くなくなってしまった。店舗が必要ないため、日本一の在庫量であり、絶版書を除くとほぼ全ての本がここで買える。読書人口が減少する中、アマゾンの存在は、既存の本屋に致命的な打撃を与え、多くの本屋が廃業となった。新刊の販売は儲けが少なく、ある程度、数が出ないと経営が厳しく、お客の減った本屋は次々となくなった。
一方、古書店は仕入れ値と販売価格の差が儲けとなるため、安く仕入れて高く売れば、新刊よりは儲けが大きい。ただ企業形態が小規模で、客数が少なく、なかなか捌けずに商品の在庫期間も長かった。それを革命的に変えたのはブックオフで、漫画、雑誌も含めてほとんどの本を安く買い、それを当初は全て100円で販売していた。一冊の儲けは少ないが、大量、早く売ることで、利益をあげた。ただブックオフは全ての本を等価値とし、買い上げ、販売も同じにした。当然、中古本でも人気のある本は高く販売できるため、“せどり”という商法が流行った。ブックオフの店で何時間も粘り、コンピューター片手にネット、オークション価格を確かめ、利益の大きい本を買っていく。店の一角に陣取って、片っ端から棚にある本を調べていく。ここで100円で買った本を、アマゾンやヤフーオークションで1000円で売れれば900円の儲けとなる。流石にこうした“せどり”が大規模になると、ブックオフもバーコードで買取本の価格をチェックし、買取価格、販売価格も一律ではなくなった。
それでも読書好きは実際に本を見てから買いたいもので、小さな本屋であっても、置かれている本の趣味が合うなら、そこで買う。いかに売れる本を安く買取し、高く売るか、店の経営はそれにかかる。そうした点では、委託で返却が可能だが、20%の儲けしかない新刊販売と儲けがそれより多いが買取の古書販売のバランスが難しい。また古書で言えば、どこで安く買いとるかがキイとなろう。小さな本屋に来る客はもともと読書の好きな客であり、多くの本を持っている。私の例で言えば、月に20冊以上買い、数百冊溜まればブックオフに来てもらい買い取ってもらった。中古本の委託販売という方法もあり、売れればブックオフのオンライン価格より高額で支払うという手もあろう。例えば私の本“須藤かく”は買取価格、11円であったが、アマゾンでは9軒の古書店が出品しており、1347円から4039円の値段がついている。さらにひどいのは、もう一つの”津軽人物グラフィティー”で2軒の古書店が出品し、9986円と10327円の値がついているが、”須藤かく”は880円、”津軽人物グラフィティー”は1980円で、いずれも新刊が今でも売っている。売れればめっけもん商売である。
中古本の委託販売の方法も、小さな店では置けばすぐに売れる本でないと棚に溜まったままになるし、委託販売の契約方法も面倒である。一日の予想客数を考えれば考えるほど、経営的には本当に難しい。いかに回転率を上げ、収益を多くするか、8畳の店での奇跡を期待したい。こうした小さな本屋はひとえにお客さんの来店にかかっているので、たくさん来店してもらい、応援してほしい。
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