2021年2月22日月曜日

日本の核武装

 






 伊藤貫著「自滅するアメリカ帝国 日本よ、独立せよ」(文春新書)は、非常に面白かった。トランプ政権のことが書かれていないので、不思議に思って、発行日を調べると、2012.3.20で8年前のもので、第5版となっており、長く売れているようだ。こうした政治トピックの新書は、せいぜい賞味期間は5年ほどで、通常、現時点で読むとかなり違和感が強い。それに対して、本書は8年前のオバマ政権下のアメリカの特徴を捉えたものであるが、「一極覇権戦略」、「アメリカ例外主義」、「デモクラティック`・ピース・セオリー(民主主義国家はお互いに戦争しない)」、「デモクラシー・ユニバーシズム(民主主義を世界中に広めよう)」、「主権制限論(ならず者国家には軍事力を行使する権利がある)」、「ヘジュモニック・スタビリティー・セオリー(超越した軍事力、経済力、外交力を持つ国(アメリカ)が国際政治と国際経済システムを安定化すれば、世界平和と経済の繁栄が生じる)などが説明され、アメリカが世界を支配しようとする体制はいずれ崩壊し、世界は多様化することを予言している。こうした流れは中国の巨大化によってますますその傾向は強くなり、現在ではインドも大きな存在となっている。世界の多様化は人類の歴史では必然であり、最終的にはそれぞれの国が独立してパワー・オブ・バランスの状態となることが望ましいとし、その方向性の一つに一番安く、日本がアメリカなどの最強国と独立する方法として著者は核武装を唱えている。

 

 現在、核兵器を持つ国は、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮である。このうち戦略核、ICBMを持つ国は、アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリス(アメリカ製)、インド(5000kmで中国まで)、イスラエル(7000km以内)、北朝鮮(?)の8カ国であるが、超大国であるアメリカを射程に入らなければ、独立国としての核武装は意味がないし、さらに秘匿が完全に行われる潜水艦からのICBM を発射できる国となると、このうちアメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスの5カ国となる。つまり核武装によりアメリカから独立するのは、北朝鮮が行おうする方法、射程10000km以上のICBMと戦略潜水艦(原子力)の保有である。さらに言うと準備に時間がかからず、移動しやすい、潜水艦にも搭載される強力な固形燃料ロケットが必要となる。つまり核兵器を持つ条件として、ロケットと潜水艦技術が高いことが挙げられる、この点ではインド、パキスタン、北朝鮮がアメリカなど5カ国に追いつくのは相当に厳しい。それにしてもイスラエルは、イスラム諸国から見れば東アジアの北朝鮮と同じであるが、アメリカから核とミサイル技術を、ドイツからは潜水艦を供給され、厚遇されている。あの国がなければ、中東の平和はよほど維持されていたと思うのは私だけだろうか。

 

 核を持っていない主要国で、ロケットと潜水艦技術が発達しているのは日本とドイツであるが、日本はドイツ以上に発達しており、ロケットは固形燃料ロケットでは世界でも最高能力を持つイプシロンが、また潜水艦では世界でもその静粛性と深い潜行ができる“たいげい型”がある。ロケットの制御技術も素晴らしく発達しており、現状でもイプシロンロケットに搭載された何かを10000km離れたところに正確に落とす技術はあるだろう。もちろん肝心の核兵器そのものは全く開発されていないが、それでも日本の科学技術がパキスタンに負けることはなく、実際の核実験をしなくてもスパコン「富岳」などを投入すれば、設計は可能であろう。

 

 攻撃型ミサイル開発の方が、そのミサイルを撃ち落とす迎撃型ミサイルシステム開発より安い。ミサイル防衛導入整備費に累計2兆円かかるされているが、それだけあれば、日本でもフランスやイギリス並みの核武装ができるだろう。北朝鮮や中国から日本が核攻撃を受けても、自国に攻撃がないと判断すればアメリカは決して反撃はしない。国際政治は冷酷なもので、将来的に中国や北朝鮮から核攻撃をチラつかせた脅しがあっても、アメリカにすれば対岸の話である。本書にも書かれているが、アメリカにとってイスラエルこそが一心同体の特殊な国であり、人口900万人足らずの国のために、この国の核武装を積極的に応援し、湾岸戦争、イラク戦争そしてシリア問題なども全てイスラエルのためにアメリカが戦争している。アメリカの現在の国防力は世界で同時に二箇所での戦争ができないため、イスラエルがある限り中東から撤退できず、今後とも北朝鮮、中国との対決はあくまで経済制裁のみとなる。日本は中国、北朝鮮あるいは韓国に対してはアメリカを頼らない軍事力を確保する必要があり、その中で一番安い方法が核武装なのである。

 

 とここまで書いたが、実際には日本の核武装は世論の反発が大きく、またアメリカ、ロシア、中国の反発も大きく、不可能であろう。それでも百億円程度の研究費で、核武装の可能性をシュミレーションするだけでも、外交的大きな武器となる。学術会議では戦争に関連する研究はするなと言うことだが、ある意味、核武装の研究は何よりの平和維持に繋がる。この本の著者も言っているが、日本では親米の右翼も反米の左翼も、ともに核武装の合理性に反発するのはおかしい。ドイツ、イタリアなどのようのアメリカの核兵器をシェアリングする国もあり、ドイツでは最近、こうした核兵器を搭載するF/A-18Eを核兵器攻撃機として購入することが決まった。日本でもこうした声があるし、隣国の韓国は核兵器を持ちたくてしょうがない。空想として戦略型の原子力潜水艦の保有を夢見ている。

 

 北朝鮮の核など、たかが数発程度であり、日本民族が消滅するという意味ではそれほど怖くはないが、中国については日本の東京、大阪、県庁所在地を完全に消滅する数の核兵器を持ち、1950年代の大躍進では数千万人、1960年代の文化大革命では数百万人の自国民を平気で殺すこの国にとって、日本を核攻撃するためらいは全くない。ただ毛沢東も言ったように「核戦争も別に構わない。半分死んでも後の半分が残る」と考える人たちなので、日本が北京を完全に消滅できる核兵器を持っても全くの脅しにもならないかもしれない。さらに隣国、韓国がアメリカの命令を無視して核武装するなら、必然的に日本の核武装論争も高まり、それを防ぐためにも、北朝鮮の消滅が不可避となる。



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